ワールド・スタディーズ

苦難の先に描く“平和な世界”と信じる力

June 17, 2016

世界の問題を知り、世界と自分のつながりを発見していく「ワールド・スタディーズ」。
この日は、シリアでの戦争被災者を援助する団体「White Heart for Syria」で活動する、アスランさんとジャマールさんをお迎えして、お二人の体験を中心にお話をお聞きました。

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「シリアとはどういう国なのか、戦争が起きてからのシリアの実情、そして、難民となって日本に来た私たちの経験について話します」。朗らかな笑顔で講義がスタートしました。

自己紹介で、アスランさんは日本のK1ファイター、ジャマールさんはシリア代表に選ばれたサッカー選手であると伝えると、「ええ!すごーい」と、生徒たから驚きの声が。

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アスランさんとジャマールさんの出会いは小学生の時。それから友達としてシリアで共に育ちました。
2011年、20歳を過ぎた頃にはじまった内戦によって難民となり、国を離れた2人は、何とか日本にたどり着き、今はそのまま日本で暮らしています。

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空爆でボロボロになった母国の家や、日本に来てすぐに入院した時の写真を見せながら、大変だった当時のことを、明るく笑いながら、ユーモアを交えて話すアスランさんとジャマールさん。

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その後、観光地の美しい景色やおいしそうな料理の写真を見ながらシリアについて解説。珍しいシリアの情報に興味を持った生徒たちは、積極的に質問し、その応答のおもしろさにたくさんの笑いが起きていました。

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「しかし、こんな素晴らしい場所に、何が起こったのでしょうか?」

宗教の違いが原因で勃発したと言われるシリアの内戦。「内戦がはじまると、昨日まで仲のよかった友人同士でさえ、宗教が違う相手に恐れを感じるようになりました。しかし、私たちは同じ人間です。宗教が違うからと言って対立するべきではないと思います」。

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爆撃で火花をあげる街。家族を失い、泣き叫ぶ父親。路頭に迷う子どもたち・・・。そんなシリアの現実を伝える映像が映し出されると、生徒たちは、その残酷さに驚きながらも、目を離さずじっと見つめていました。

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「この内戦で亡くなった人は47万人。そして、400万人の難民が生まれました」。

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毎日のように暗いニュースが飛び交う中でも、「いつか世界はひとつになり、平和になると信じている」と言い切るアスランさんとジャマールさん。
そんな強い想いを胸に、現在、White Heart for Syriaの一員として、シリアの現状を伝えたり、チャリティーイベントで集めた支援金を送ったりと、祖国の人々を援助する活動を続けています。

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「戦争でいつ死ぬかわからない場所に暮らし、学校がないので文字も書けない子どもがいます。今あるものに感謝をし、今この瞬間を楽しんでください」。
困難を乗り越えて母国のために尽力する2人のメッセージは、生徒たちの心に強く響きました。

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講義後は、チームに分かれて、「日本におけるシリア難民の対応」というテーマでディスカッションをします。
「日本はシリアからの難民申請の99パーセントを断っている」「日本は1600億円をシリアに支援している」という情報をもとに、生徒たちはチームで感想や意見を交換し合います。

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「日本の受け入れってすごく少ないね」「日本政府はほかには何かしたのかなぁ」「そもそも難民ってなに!?」。
生徒たちは、難民問題をシリアだけのことではなく、日本にも大きく関わる問題だと捉えて、盛んな議論を展開。

ディスカッションを踏まえて、講師の2人に各グループからひとつずつ質問をしていきました。

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「日本はなぜこんなにお金を渡しているんですか?」「どうしたら日本はよりたくさんの難民を受け入れるようになると思いますか?」という質問を受け、2人は講義以上の熱心さで答えていました。

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今回、自分たちと同じ人間が抱えている問題として、日本がシリアのためにできることを探った生徒たち。
情報の上ではなく、実体験を持つ2人のエネルギーを受け取り、「世界がひとつになり、平和にしたい」という想いへの共感を広げていました。

 

【講師プロフィール】

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アスラン(Aslan)

シリアのダマスカス生まれ。国を代表するプロのキックボクサーチーム出身。 ダマスカス大学で法律を学ぶ。 戦争がはじまって2年後、トルコに家族と移住。2年間過ごしたのち来日し、“White heart for Syria project”を創始した。

ジャマール (Jamal)

シリアのダマスカス生まれ。シリアでは学生でありながらシリア代表のサッカー選手だった。2013年に母と姉妹と一緒に日本に難民として受け入れられ移住。現在、日本の大学に入学するための勉強をしている。アスランと共に“White heart for Syria project”の活動を行っている。