9、10、12年生を対象に、学年ごとに行われた今回のグローバルキャリア講座。
講師には、ケニアに「循環型無水トイレ」を普及するための研究開発を行っている山上遊さんをお招きしました。
「私はトイレが大好きです」と話しはじめる山上さん。生徒たちは冒頭からぐいっと引きつけられました。
「今日伝えたいことは4つです。夢を語る勇気を持つこと、夢は何度も変えていいこと、がんばってそれをやって次の夢に生かすこと、夢は職業じゃなく職業を通じてやりたいことが夢、ということです」と、講義の要点をわかりやすくお話されることからスタート。
そして、「誰もがいつでも安心してトイレを使える世の中にするのが、私の夢です」とご自身の夢を伝えられます。
トイレへの情熱を語る山上さんのエネルギッシュな口調も相まって、毎日使っていながらあまり話題にのぼることのない「トイレ」について、どんな話がはじまるのかと生徒たちは冒頭から興味津々。
山上さんが現在活動しているケニアのスラムでは、多くの家にトイレの設備がありません。では、どうしているのでしょうか?
「今からトイレを投げます」。山上さんは用意していたダンボール箱から、何かが入った手のひらほどのビニール袋を取り出し、投げはじめました。
「きゃ~!」「わ~!」とびっくりしながら受け取る生徒たち。「トイレと言いましたが、中身は実はケニアの紅茶です。安心してください」とタネ明かしをされると、安堵の笑いが一気に広がりました。
「今、投げたのは紅茶ですが、スラムでは袋の中身は排泄物。それをこのように屋外に投げるんです。これをFlying Toiletと言い、深刻な衛生環境問題になっています」。
投げ捨てられた排泄物によって汚染された生活環境の中で、多くの子どもたちが病気になり、命を落としているのだと伝える山上さん。
このような現状を改善し問題を解決するために、インフラが整っていなくても使える「無水トイレ」をつくり、普及させるという夢に向かって活動を続けられています。
その取り組みの功績が認められ、2014年には日経ウーマンオブザイヤーを受賞した山上さんですが、「小さい頃からたくさんの夢を持ってはあきらめ、順風満帆ではなかった」といいます。
小学校から大学までの間に、通訳や建築家と夢を変えながら努力もしてきましたが、どれも本当の夢ではないと途中で挫折。さらに、大好きなトイレに関わる会社に入り、夢が叶ったと思ったものの、工場管理のシステムエンジニアという望まない仕事に配属され、転職を考えたこともあったそうです。
それでもやってみると意外に楽しく、トイレの新たな魅力に気づくことができました。それをきっかけにトイレについてより多くのことを知り、悩み、いろいろな可能性を考え、ある時、「誰もがいつでも安心してトイレを使える世の中にする」という本当の夢に辿りついたのだそうです。
「この夢のためならどんな職業でもいい」そんな想いでさまざまな職業を調べたところ、最も身近な自社内にトイレの研究開発部門があることを知りました。そこでさっそく異動するための行動を起こします。
「そのために、これまでやってきたことを振り返って、自分ができること全てをがむしゃらにアピールしました。建築の勉強はトイレを設計する上で役に立ち、やりたくなかったシステムエンジニアの経験も強みになりました」。
必死の働きかけが功を奏し、ケニアでの研究職につくことができた山上さんは、今夢を叶えるための仕事に打ち込んでいます。
「その時その時で目の前にあることに全力で向き合い、努力する。そうしてがんばって得たものは、10年後の夢を達成するために必要な要素になります。役に立たないと思ったがんばりも、きっと夢を叶えるために役に立ちます。ぜひみなさんもがんばってください。そして、夢を叶えてください」。
努力を惜しまず、道を拓いてきた山上さんのメッセージは自信と情熱に溢れ、生徒たちの心に強く響いていました。
講義が終わると、たくさんの生徒たちが山上さんの元に集まり、ケニアやトイレに関することはもちろん、「夢はどうしたら叶いますか?」「夢をどうやって見つければいいですか?」と、夢に関する質問をたくさん投げかけていました。
今回の講義で、夢を持つこと、そして夢に向かって今を精一杯がんばることの大切さを知った生徒たち。夢に向かってチャレンジする勇気を得て、清々しい表情で会場を後にしました。