今年度6回目のグローバルキャリア講座のテーマは、「環境・国際協力」。高校3(12)年生全員で、元世界保健機関(WHO)ジュネーブ本部専門官の一盛和世さんのお話をお聞きしました。
一盛さんは、熱帯病(NTD)、特にフィラリア症の専門家として世界各地でこの病気の根絶に尽力してこられました。
司会の生徒の紹介で登壇された一盛さんは、「『熱帯病と闘う』という題で、モスキート(蚊)とそれが媒介する病気についてお話したいと思います」と講座をスタート。
「知っている熱帯病はありますか?」と生徒たちに問いかけ、昨年日本でも騒動になった「デング熱」を例に、国際化や地球温暖化が発症の大きな要因であると解説。「熱帯病といえども他人事ではない」、「キーワードは、地球、世界、人間社会、貧困、人権。今日の話を聞いてみなさんにも考えてもらえたら嬉しいです」と言ってお話がはじまりました。
続いての自己紹介では、「海外生活30年です」とこれまで赴いた国や、大学の研究室で見た写真にショックを受けて、この仕事に就くことになったというエピソードを紹介。
その後一盛さんは、「こんな不幸なことはない。これは取り除ける不幸だ」という想いで、世界中のフィラリア根絶を目指して活動することになります。
「今日はこれからいくつかショッキングな写真が登場しますが、ぜひみなさんもびっくりしてください。これが現実です」。
一盛さんはそんな現実を見つめ、世界中からフィラリアを失くすために、WHOが世界に呼びかけて行ってきた活動の責任者をされてきた方です。
WHOの目標は、世界中の人々の健康を守り、さらにその先にある貧困をはじめとした格差を失くすこと。それはまるで、「宇宙から地球を眺める視点」で世界を捉えることだと一盛さん。
現在の地球は格差の大きい「不平等な星」であり、熱帯病撲滅はその不公平を失くすひとつのアプローチであるという説明は、とても明解でした。
そして、お話はこの講座の主題である「熱帯病」へ。“びっくりする現実”として痛々しい症状の写真が示されていきます。そこには誇張も加減もなく、フィラリアに罹患してしまった人たちの厳しい現実がありました。
「バヌアツのこの男性はこんな足になってしまって、村の人から祟りだと言われ差別を受けていました。けれども、本人も周りも病気であると知って、治療に向き合うことができるようになった。だから知るだけで救われることもあるんです」。
キリバスで学校の先生をしていた男性もフィラリアで足を患い、いつも人の世話にならないと生きていけなくなった。だから、WHOの根絶運動のためにあなたの写真を使っていいかという申し出に、自分が誰かの役に立てるのは嬉しいと、喜んで同意してくれたのだそうです。
その時一盛さんは、「“人の役に立つ”ということも人間が持っている大切な権利なんだ」と実感されたそうです。
世界保健総会194の加盟国が全会一致で「2020年までの根絶」を決定したフィラリア症。それを受けて、2000年からWHOの「世界フィラリア症制圧プログラム」がはじまり、世界60カ国10億人が薬の投与などの支援を受けて着実に成果が上がっているそうです。
けれども、貧困問題を背景になかなか開始できないアフリカなど世界の格差はまだ大きく、それをこれからはみんなで失くしていってほしい。この病気の根絶の手法は見えていて実行あるのみ。
「私たちは、フィラリアのない世界をつくると言い切ります」という一盛さんの力強いことばが、みんなの胸に強く響きました。
最後に、WHOで働くために必要な資質などを話された後、「世界で働く人は、国籍や人種、学歴ではなく、その人自身の中身が重要です。世界に夢を持って自分を知り、どんどん大きくなっていってください」と力強いメッセージが贈られました。
“地球人”が一丸となって同じ目標に向かい、自分のできる方法でそれぞれの役割を果たせば、世界は確実に変わる。そのために自分自身の中身をしっかりつくっていくことからはじめる。
生徒たちは今回のお話から、より大きな視点で世界の未来を想像する“知恵と力”を受け取っていました。