グローバルな活動をされている方々を講師に招いて行われるグローバル・キャリア講座。
毎回の講師のみなさんの体験にもとづいたお話はとても魅力的で、世界とのさまざまな関わり方を知るきっかけになっています。
12回目の講座では、認定NPO法人「国境なき子どもたち」の創設者であり、会長の寺田朗子さんにお話しいただきました。
今回も昼休みになるとすぐに生徒たちが集まり、めいめい着席してはじまりを待ちます。先生からの紹介の後、寺田さんはとても優しく気さくな雰囲気で、「若いみなさんと会えるのを楽しみにしてきました。私の孫が中学3年生ですので、みなさんにとってはちょうどおばあちゃん世代です」と語りかけ、お話をはじめました。
「もう半世紀前、つまり50年前の大学時代から話しますね」と、大学に行く女性がとても少なかった時代、入学当初から主任教授に「税金を使って勉強しているのだから無駄にするな」と言われたり、インターナショナルスクールで日本語を教えていた母親に「女性にも必要だから勉強をし続けなさい」と言われて、自分でも「なにか社会還元しなくては、そういう仕事をしなくては」と思いながら、なにもできていない現実に大きな重圧を感じていたと、当時の心情をお話しされました。
転機は40歳を過ぎた頃。「国境なき医師団」の日本支部設立準備とボランティア第1号としての仕事でした。母親のことばを受けて細々と続けていたフランス語の勉強が役立ち、「母の言ったことは本当だったなあと、しみじみと実感しました」とおっしゃり、「当時日本では無名だった国境なき医師団に参加することでたくさんの経験ができ、それが私の新しい人生のはじまりでした」と実感を込めて語る寺田さんのことばは、静かにみんなに届いていきました。
国境なき医師団はその後ノーベル平和賞授賞をきっかけに知名度が上がり、当時日本支部の会長だった寺田さんは、団体のことを伝えるためにいろいろな勉強をして試行錯誤しましたが、最後は自分の知っていること、できることをこころを込めて話すだけでいい、偉そうなことを言ったり知ったかぶりをする必要はなく、自分らしくいることが大切だと知ったそうです。
そのあと、「ついでに少しだけ」と、オスローでのノーベル賞授賞式の様子をとても楽しそうにお話しくださいました。楽しいエピソードからその場の情景、気持ちの高揚感が伝わり、会場にもワクワクした気持ちが広がりました。
そして、現在会長を務める団体「国境なき子どもたち」の設立のきっかけと、支援しているストリートチルドレンについて、現地の写真とともに、報告されている実態、直接体験したエピソードを紹介されました。
次々に映し出される幼い子どもたちの様子は、「同じ時代にこんなふうに暮らす子どもがそんなにいるのか」と改めて考えさせられるものでした。勉強することもできず、将来の夢も描けず、ただ生きているだけのようなぎりぎりの状態にさらされている生命があることを感じて、話を聞くみんなの意識もぐっと集中していきました。
そして、そんな子どもたちへの教育支援の例として、フィリピンとカンボジアで出会った少年との交流の記録を紹介。「私たちは、こうした子どもたちと共に成長することを願って仕事をしています」という寺田さんの愛情あふれる眼差しから、温かな慈愛が伝わってきました。
最後に、「どんなことでも自分を成長させる財産です。出会ったことを受け入れて真摯に向き合ってみてください。必ず得ることがあります。将来の自分のためにぜひがんばってください。みなさんの成長をこころから楽しみにしています」とメッセージを伝えていただきました。
早くから目標を持って進めるだけではなく、自分なりにできることを続け、出会ったことを受け入れていくことでも、一生の仕事に巡り会えるということを、生徒たちは寺田さんのやわらかな存在感からしっかり受け取っていました。