今回のグローバルキャリア講座は、貧困や児童労働で苦しむ子どもを支援する国際協力団体「フリー・ザ・チルドレン」で活動するミシェル・チクワニネさんを迎えて行われました。
今回は、IBクラスとグローバルスタディーズの生徒を中心に、中学1年から高校3年までの生徒約150名が参加しました。
講座では、母国のコンゴ民主共和国で“子ども兵士”として捉えられた体験や紛争による虐待の実態を伝える活動を続けてきたミッシェルさんのお話を中心に、フリー・ザ・チルドレンの活動も紹介されました。
はじめに、2人の生徒が代表して日本語と英語でミッシェルさんにあいさつ。その後、フリー・ザ・チルドレン日本法人スタッフの天野さんが団体の概要や活動理念を紹介し、「“私は世界を変えられる”。どんなに小さな行動でも、それらがつながって世界を変えることになる」とメッセージを伝えました。
続いてミシェルさんが、自分の名前を1文字ずつ擬音で例えながら自己紹介し、みんなで声を合わせて発音。生まれ育った村での暮らしをユーモラスに伝えると、会場のあちこちで笑い声があがりました。今回は、英語ができる生徒も多く、ミシェルさんの話にダイレクトにリアクションして相互にコミュニケーションを楽しんでいました。
「でも、このようなことはほとんど知られることはない」とミシェルさんは続けます。「アフリカについては、有名な観光地か貧困や内戦の情報しか扱われない。しかし、そのほとんどがなぜそういう状況になっているのか、背景も知らずに伝えられている。それはとても不確かなこと」と訴えました。
そして、いよいよミシェルさんの体験談がはじまります。ミシェルさんが誘拐され、少年兵として訓練を受けたのは5歳の時。連れ去られた時の状況や訓練の様子は、日本にいる生徒たちには耳を疑うような衝撃的なものでした。
会場は一気に話の中に引き込まれ、みんながミシェルさんのことばに集中。ミシェル少年がそこから逃げ出す力になったのは、「お父さんに怒られるから帰らなくちゃ」の一心だったというエピソードは、強い絆でつながっている家族の力を感じさせました。
家族のもとに戻ったミシェルさんは、「もうこんな酷いことは起こらないだろう」と思っていましたが、1998年からはじまった内戦を機にその暮らしも追われることになります。内戦の背景に疑問を持ち、突き止めた事実を伝える活動をしていたミシェルさんの父親への迫害がはじまって、ついには父親を目の前で亡くし、家族への暴行を目の当たりにするに至ります。家族は全てのものを手放し、難民としての生活がはじまりました。
その後、移民としてカナダに受け入れられたミシェルさんは、気候も含めた環境の違いに大きなカルチャーショックを受けます。そして、全てが恵まれていて何の不自由もないはずなのに不満を言う同級生たちを、「きっと何も知らないからだ」と思って自分の体験を伝えると、それが反感を買い、居場所をなくしてしまいます。
そんな時、フリー・ザ・チルドレンをつくったクレイグ・キルバーグのことを知り、「自分も仲間をつくって伝えれば子ども兵士をなくすことができるかもしれない」と考えて活動開始。今ではたくさんの国でたくさんの人々に伝えることができるようになったと振り返ります。
「みんなにしてほしいことは、“アクションを起こす”ということです」とメッセージを伝えるミシェルさん。「その人の価値は、どんな心を持っているか、他の人のために何をしたのかで決まるんだよ」――。真実を伝える活動をして亡くなった父親が言い残したそのことばとともに、「お父さんの残してくれた遺産、心を引き継ぎたい。だから黙っていることはできない。そう思ってこの活動を続けている。今日は話をする機会をつくってくれてありがとう」とお話を終えました。
質疑応答では、子どもたちが兵士として集められる理由、彼らのその後についてなどの質問があがりました。その存在さえも知らなかった子ども兵士について、今日の話を聞いたことで、生徒たちの意識が大きく変わっていました。
そして、直接聞けたお話の中には、辛く悲惨な気持ちだけでなく、ユーモアたっぷりなカルチャーショックのエピソードなどもあり、メディアの報道の奥に潜む当事者のリアリティや、本物の「情報」の大切さをまざまざと感じる体験になりました。
このあと、今回の公演のきっかけにもなったフリー・ザ・チルドレンジャパンの活動に参加している、内山さんと遠藤さんのトークセッションが行われました。事例を紹介しながら、この活動にどんな気持ちで参加しているのかを話し、「自分から伝えることで世界を変えられるということを、みんなにも知ってもらいたい」と伝えました。
この日、たくさんの生徒の胸に「自分の行動で世界に影響をもたらすことができる」ということを真剣に考えるきっかけが生まれました。