グローバル・キャリア講座の10回目は、写真家の関健作さんを講師に迎えて行われました。
関さんは、2007年から2010年まで青年海外協力隊員としてブータンに派遣され、帰国後は写真家として活躍されています。体育の先生としてブータンに行くことになったきっかけ、現地での出来事やその時の想い、帰国してから写真家として活動するまでをお話しいただきました。
今回も、お昼休みになると同時に約70人の生徒が会場に集合。講師の関さんは、ブータンの民族衣裳を着て登場されました。
はじめに披露されたのは「一発芸」。それは、派遣当時全く英語ができず、「あいつはことばもできないのに何をしにきたのか?」と現地の人々に言われ、なんとかコミュニケーションを取ろうと考え出したものでした。
シャドウボクシングに合わせ、巧みに声で効果音をつけた動きは臨場感があり、生徒たちから「すごーい!」と声が上がるほど。
続いては「ぱっと見ての感想を答えてください」と、次々に写真を見せながら生徒たちに質問。会場はすっかり打ち解けた雰囲気になりました。
関さんは、中学から大学までを陸上選手として過ごし、高校生の頃は「夢はあきらめなければ必ずかなう」と信じて毎日練習を重ねていました。けれども、大学で国際大会やオリンピックに出場する選手たちを目の当たりにして、「自分には才能がない」と自覚。
全てを注いだ陸上で挫折して落ち込んでいた時、テレビのバラエティ番組で紹介されたブータンという国と、そこで体育を教える女性の生き生きとした表情に感動して、青年海外協力隊への応募を決意。2007年から念願のブータンでの生活がはじまったそうです。
ブータンの食文化や民族衣裳のエピソード、首都ティンプーから車で3日もかかる赴任地のタシアンツェへの道のりを映像で紹介すると、生徒たちは、日本とは全く違うその国の様子を興味深く見つめていました。
いよいよ活動をはじめた関さんは、ブータンの教育現場に「体育」が認知されていないことを知り、とにかくその楽しさを教えることにしました。道具も何もない場所で、「どうしよう、どうしよう」と考えるうちにたくさんのアイディアが生まれ、子供たちといっしょに竹やゴミから道具をつくりながら、楽しそうな笑顔に囲まれて充実していました。
ところが一方では、ブータンの人々の生活やのんびりした気質を受け入れられず、イライラと孤独感もつのっていました。そんな時関さんは谷に落ちて大怪我を負ってしまいます。治療のために帰国すると、毎日のようにブータンの子供たちの笑顔が夢に出てきて、自分の想いを再確認した関さんは、2ヶ月後ブータンに戻り活動を再開しました。
そこからはブータンの人々の考え方やペースに合わせることに務め、英語ではなく現地のことばを猛勉強して、3年後には「ブータン人化した日本人」としてテレビで取材されるほどになりました。
ブータンを知れば知るほど、相手も受け入れてくれるようになり、「ブータン人と同じ目線に立って一緒に体育を教えよう」という気持ちで接すると、今までうまくいかなかったこともすんなりできるようになりました。こうした実体験をもとに、「相手を知ること」「自分で体験すること」「違いを楽しむこと」が国際理解のために大事であると、力強い口調で生徒たちにメッセージ。
帰国して小学校の教師を一年間勤めた後、いちばんやりたかった「ゼロからつくり出すこと」「人に伝えること」を仕事にするため、未経験ながらも写真家の道を選んだ関さん。海外赴任で出会った子供たちの笑顔を原動力に、さらに活躍の場所を広げるその生き方に、生徒たちも引きつけられていました。
最後の質疑応答では、「ブータンの人々に見習うべきことはありますか?」という質問に、「今あるものに感謝するという価値観」と回答。ブータンを自分のことのように知っている関さんのことばには強い説得力がありました。
たくさんの美しいビジュアルでブータンを感じながら、人の持つ可能性や体験の力の大きさに、生徒たちがたっぷり触れた30分間でした。