玉川学園高等部の先輩であり、日本赤十字社、国際協力機構(JICA)、外務省等で国際協力の仕事をされてきた宮川佳子さんを講師に迎えた、今回のグローバルキャリア講座。その仕事を選んだきっかけや、実体験から得た国際社会で働くために必要なことについてお話しいただきました。
「中学部の先生の中に元同級生がいるんですよ」。そんな宮川さんのことばに会場の空気がほぐれます。
講演は、これまで活動されてきた地域や仕事についての紹介からスタート。450人程度で使う規模の井戸を4,500人で使っている地域の写真とエピソードでは、会場に小さなどよめきが起きました。
続いて、宮川さんが国際協力の仕事を志すようになったきっかけを話されます。
中学2年生まではコックになりたいと思っていた宮川さんは、玉川学園高等部に進学し、だんだんと世界に目を向けていきます。
英会話を習っていたり留学経験があったり、いつも外に視野を広げて活動する友人たちに刺激を受けたこと。現代社会の課題の過程で旧ユーゴスラビア地域紛争の記事に触れ、苦しむ人々に心を傷めたこと。そして、終戦後に抑留されたシベリアでの体験を記した、おじいさんの手記を読んだことが、大きなきっかけになりました。
シベリア時代のおじいさんの話は幼少の頃から聞いていましたが、高校生になってあらためて手記を読み、「今、自分の命があるのは、おじいちゃんが戦争を生き抜いたからなんだ。せっかくいただいた命なのだから、目的を持って使いたい。苦しんでいる人のために何かできないだろうか」と考えるようになります。
そして、世界で苦しむ人々を支援する仕事を目指すことに決め、「外の世界を知るためには、まず自分の国を知らなければならない」と考え、大学で政治学を学び、留学を経て、国際協力への道を歩みはじめました。
次に、 “国際協力で大切なスキル”である 「英語力」「現地を知ること」「コミュニケーション力」について、それぞれの理由を体験談を交えてお話しされます。
「『この現場にこういう支援をすればよい』と机上でいくら考えても、いざ現地に行くと、望まれることと自分たちの想定とが違うことがあります。理論や常識では解決できないからこそ、現地を知ること、そのために現地の人に聞いて学ぶことが大切です」。
それぞれに実感のこもったエピソードは、強い説得力を持って、聞く人に届きます。
けれども時として、そうしたスキルを日々磨きながら仕事をしていても、自分の力ではどうにもならない現実に直面して悩んでしまうこともあります。
そんな時こそ、「紛争や災害など、個人ではどうにもできない状況で苦しんでいる人を助けたい」という原点に返るのだと話す宮川さん。
よりよい国際協力のために大切にしていることば、「温故知新」「無知の知」を常に意識して、仕事に取り組まれています。
「国際協力の道に進む人も、そうでない人も、いろんなことを知って、過去を検証し、考えて行動するのはすごく大切なことです。 みなさんも、たくさんのことを学んで、今日の話のどこかひとつでも覚えて帰ってくれたらいいなと思います」。
生徒たちは、メッセージに込められた宮川さんの等身大の想いを受け取りました。
講義後、机に並べられた物を前に質問をする生徒たち。“現地に必ず持っていく”という生活用品やケガの応急処置道具には意外な用途もあり、さっそく現地のことを知る機会になりました。
「自分の力なんて弱すぎて、何の役にも立てないと悩んでいました。でも、先輩も同じだったのを知って、『悩んでいてもいいんだ』と思えました。今勉強していることの意味が納得できました」。
紛争解決の仕事に興味がある生徒が、晴れやかな表情で感想を伝えていました。
国際協力をするには何を学ぶべきなのか話し合いながら会場を後にする生徒たち。“自分自身が大切に思うこと”が、学びや仕事の大きな力になることを知りました。