4年目がスタートした玉川学園SGHプログラム。今年度最初のグローバルキャリア講座には約250名の生徒が参加。3年間の活動が着実な広がりをもたらしました。
この日、講師としてお招きしたのは、内閣府国際平和協力本部事務局(PKO事務局)の西村正二郎さん。日本の外交官、国連の政務官として、アフガニスタンや南スーダンでの職務にあたったご経験をもとに、『国際平和協力25年 日本から見た平和、国連から見た平和』というテーマでお話いただきました。
「実際の経験をふまえ、日本の外交官、国連の職員として働くこととはどういうことかお話しします!」
西村さんのお話は、国際的なキャリアに踏み出す原点になった、一本のドキュメンタリー映像のことからはじまりました。
その映像を見たのは進路を考えはじめた18歳の時。偶然の出会いでした。
そこに描き出されていたのは、ゴミ山で腐った肉を食べるようなひどい生活を強いられる黒人のストリートチルドレンたち。過酷な状況のなかで、「僕たちはあきらめない」と生き抜くこどもたちの姿に大きなショックを受けた西村さんは、「この分野で、何かアフリカの人たちのためにできないだろうか。それを一生の仕事にしよう」と決意。
国際的な分野に強い東京外国語大学に進学し国際問題について学んだ後、国際的なキャリアをスタートさせました。
次にお話されたのは、西村さんが携わってこられた2つの仕事、日本の国民のための仕事をする“日本の外交官”、自分の国とは関係なく国連憲章の目標のために働く“国連職員”について。
ニュースでも聞き覚えのあるソマリア海賊問題を例に説明した“日本の外交官”についての話や、補佐官としての“国連職員”の業務を「国会議員にとっての秘書、芸能人にとってのマネージャーの仕事」と例えた説明は仕事のイメージがしやすく、生徒たちはどんどん引き込まれていきます。
国連幹部の補佐官として、仕事も国籍もさまざまな人たちの間に立って調整したこと、カフェテリアの食事をよくしたいという上司に反発してクビにされたことなど、ユーモアを交えてリアルな仕事の話を紹介。そうしたエピソードには、さまざまなことを乗り越えてきた実績と、困難をもユーモアに変えながら仕事を遂行する西村さんの強さと人柄が表れていました。
なかでも際立っていたのは、2011年のスーダンから分離独立後もなお不安定な状態が続く南スーダンでの経験談でした。
「これは去年の7月、南スーダン国連PKOのオフィスの窓から撮影しました」ということばに続いて激しく鳴り響く銃声音と、市街地での銃撃戦の映像にすっかり釘付けになる生徒たち。会場に緊迫した空気が伝わります。
次に映し出されたのは、職場の仲間と仲よく食事をする様子と、アフガニスタン元大統領と一緒に参加した会議の写真。しかし、写真の中にいる仲間の2人は自爆テロで亡くなり、大統領はこの2週間後に暗殺されたことを聞き、会場には新たな衝撃が走りました。
「この道に進むことは本当に大変です。仕事も勉強もそうですが、なにより死が日常的にあるからです。過酷な状況に直面し、自分が無力だと感じることもありますが、それでも18歳の自分が感じたこと、それからの選択は間違っていないと確信しています。これは一生をかけてやる仕事だと思っています」。
どんなことがあっても揺るがず、今も西村さんの原動力となっている18歳の決意は、生徒たちの気持ちと共鳴し広がっていきます。
「自分が18歳でドキュメンタリーを見て感じたように、みなさんも若くて多感なその時期に多くのことを感じるでしょう。何か心にひっかかるものがあったら、それを大事にしてください。それが一生の仕事になるかもしれません」
最後に送られたメッセージに、生徒たちは大きな拍手で応えました。
「国連職員になるにはどんな資格が必要ですか?」
「ドキュメンタリーを見て何から行動をはじめたんですか?」
講義後、生徒たちからの熱心な質問に、「まずは国連で何をしたいのかをよく考えることが大事です」「将来仕事として関われるよう、勉強しました」など、それぞれに情熱を持って答える西村さん。互いに有意義な時間を共有しました。
18歳で決意した想いを持ち続け、困難にも立ち向かい走り続ける西村さん。
生徒たちは、国際的な仕事のことを知るとともに、その仕事を遂行するために大切な姿勢を感じ取っていました。