玉川学園の生徒たちが企画、運営する「玉川模擬国連会議」が開催されました。3回目を迎える今回の会議には、関東、関西の19校、138名の生徒が参加し、会議テーマの「児童労働の根絶」を目指して白熱した議論が繰り広げられました。
2月5日の「玉川模擬国連1日会議」に先立って、4日に児童労働についての「研修会」を実施。ILO駐日代表の田口晶子さん、デロイトトーマツオンサルティング世界戦略室ディレクターの田瀬和夫さんをお招きして、世界の児童労働問題の概要と国際機関の取り組みについてお話しいただきました。
司会の生徒による講師紹介に続いて、田口さんの講義からスタート。
世界の労働環境を守る国際機関としてのILOの役割、児童労働を取り巻く状況と根絶への動きを、国際的な統計データや児童労働をめぐる実態を具体例を上げながら解説されました。
「児童労働の撤廃のためには、教育がいちばん重要です」と田口さん。大きな原因のひとつである教育の場の欠如を改善する、教育制度の充実が最大の策であると説き、「児童労働の撤廃に向け、みなさんとも一緒に取り組んでいきたい」と伝えられました。
田瀬さんは、ビジネスの観点から見た人権、児童労働について、世界の最先端の動向を、さまざまな事例を交えてお話されました。児童労働に対する企業のあり方や、労働環境の改善をはかることで業績が伸び評価が向上する企業が増えていることなど、企業活動と人権の関わりについて解説。
田瀬さんのお話は、論理性に富んだ高度な内容ながら、具体的な実例とフランクな口調で生徒たちの思考に働きかけ、頭ではなく感覚的に落とし込むように理解を広げていきます。
「私が実際にやっていた、アプローチに至るための考え方をみなさんに伝授します」と伝えられた考え方のモデルも、最新の情報技術を使ったアイディアも、生徒たちにとって、翌日の会議ですぐに使える実践的なヒントになりました。
講義後の質疑応答では次々に生徒たちの手が挙がります。児童労働について多くの調査をしてきた生徒たちは、疑問を解決する機会を逃すまいと、積極的に質問をぶつけていきます。講師のお二人は広い見識と現場の経験から即座に的確な答えを返され、熱気あるやり取りが行われました。
最後に、「国家として国益を考えて交渉することは重要ですが、それを超えて実現しなければいけない普遍的な価値をどのように追求できるのかを考えて会議に臨んでください」とエールが送られ、翌日の会議に向けた研修が終了しました。
翌5日は、朝9時の開会式から「玉川模擬国連1日会議」がスタート。会議を運営・進行するスタッフの紹介の後、さっそく各委員会に分かれての会議が行われます。
今年の会議は、新しい試みとして、前半に「法」「教育」「経済」の3つの委員会に分かれて議論し、後半に総合的に論じていく全体会を行うという会議形態で進行。各国の大使は、事前に3つの分野をリサーチ、考察した上で臨んでいたため、各会場は出だしから積極的なスピーチや交渉が行われました。
「世界的に共通した法案の制定が必要です」「教育にかける国家予算の増額を提案します」。メモを利用しての協定交渉や、昼食時間にも非公式討議(アンモデレートコーカス)があちこちで行われ、午後の全体会に向けて各国の動向が活性化していきます。
運営スタッフたちは、精力的に会場を動きまわり、会議をサポート。プレスチームが発行した号外には、会議の進行の他、参加校や手土産のお菓子の紹介といった情報も盛り込まれ、参加者の一体感をつなげる役割を果たしていました。
全参加者が集合した全体会議がはじまると、各委員会での見解をもとに、他分野の意見を包含した決議案(DR)の作成に向けて最終調整に入ります。
各国の意見を表明する演説、大使の求めに応じて行われるアンモデレートコーカス、賛同する国の最終確認、一連の過程を経ながら徐々に終盤に向かって意見を収束させていきます。
会議運営方法の認識の相違や、共有用のインターネット環境の不調といったアクシデントの発生もありましたが、フロントスタッフの臨機応変な対応や、大使、運営スタッフたちの協力で切り抜けました。
最終的に提出された決議案は「法」委員会からの1案。投票前説明の「今回、これが唯一の成果となるものですので、みなさんぜひ投票をお願いします」との訴えに応えるように、各国から賛同の票が上がり、無事決議として採択され、会議は終了しました。
会議終了後、決議案をとりまとめた大使たちや、議長、フロントスタッフたちがこの日の会議を振り返り、会議で得られた充実感とともに、参加者と運営したスタッフに対する感謝を述べました。
閉会式では、会議に貢献した国に賞が贈られ、参加者からの温かい拍手に喜びの表情を見せる大使たち。
あらたな試みに果敢に挑み、想定外のことも、会議を主催するホスト校としても絶対に成功させるという気迫で乗り越えた今回の会議。これまでの経験とともに、自分たちでやり切った成果を実感して、ひとまわり大きな成長を遂げていました。
【講師プロフィール】
田口 晶子
Akiko Taguchi
国際労働機関駐日事務所駐日代表。京都大学法学部卒業。1980年労働省(現厚生労働省)入省、労働省婦人局婦人政策課企画官、政策研究大学院大学教授、厚生労働省統計情報部賃金福祉統計課長、ILO駐日事務所次長、国立職業リハビリテーションセンター次長、国際労働基準研究官などを歴任し、2015年3月厚生労働省を定年退職。2015年4月から2016年1月まで立命館大学公務研究科教授。2016年2月より現職。
田瀬和夫
Kazuo Tase
東京大学工学部原子力工学科卒、ニューヨーク大学法学院客員研究員。1992年外務省に入省し、国連政策課、人権難民課、アフリカ二課、国連日本政府代表部一等書記官などを歴任。2001年より2年間、緒方貞子氏の補佐官として「人間の安全保障委員会」事務局勤務。2005年11月より国際連合事務局・人間の安全保障ユニット課長、2010年10月よりパキスタンにて国連広報センター長を歴任。2014年6月よりデロイトトーマツコンサルティングの執行役員・ディレクターに就任。企業の世界進出を支援、SDGsとESG投資をはじめとするグローバル基準の標準化、企業のサステイナビリティ強化支援などを手がける。2016年5月1日より同社CSR・SDGs推進室長に就任。