「はじめにみなさんに質問します。今、地球上にはどのくらいの人々が暮らしているでしょうか?」
この日のグローバルキャリア講座を受講する9年生(中3)の生徒たちに語りかけるのは、世界銀行東京事務所の上級広報担当官としてご活躍されている大森功一さん。『グローバルな開発課題、世界銀行が求める人材イメージ』と題し、世界銀行のこと、世界銀行が扱う開発課題のこと、国際機関など世界で求められる人材について、お話しいただきました。
「世界の人口は、これからも増え続けて2050年には100億人近くになると予測されています。そして、このことが世界銀行が携わる開発課題の最も重要なポイントです」。
人口が増加するのは、貧困の問題を抱えた途上国の国々であり、水や食料も、教育も、社会制度も足りない暮らしを余儀なくされている人々の多くは途上国に住んでいます。途上国を支援する世界銀行をはじめ、開発に携わる国際機関は、そうした人々に対して将来どのような貢献をすることができるのかを考えることが重要だと話す大森さん。
人口が減少傾向にある日本にいれば実感がないかもしれないが、これからはそうした視点で世界を見て、いろいろなことを学んでいってほしいとメッセージを伝えました。
「世界人口の10人に1人が、みなさんが何げなく使う200円で、1日の生活の全てをまかなわなければいけません」「1キロ以内に1日1人20Lの水を確保できる場所を持たない人々が9億人いると言われています。日本ではトイレを3~4回流すとなくなる量です」。身近でわかりやすい例えから、途上国の貧困や生活環境の厳しさを感じ取った生徒たちは、手元の資料にメモを取りながら神妙な面持ちで聞き入っていました。
続いて大森さんは、世界銀行の概要、アメリカのワシントンにある本部の建物や環境、そこで働く人々の様子を紹介。
英語を共通語に、ことばも文化的背景も違うさまざまな国の人々が働く職場では、「全てを説明しないと仕事ができない」と言います。“なんとなく”の共通認識を頼りに“空気を読む”日本とは違う、グローバルに通用するコミュニケーション力が必要なことを、生徒たちも理解していました。
そして、そんな世界銀行で働く日本人はどのような人々なのか、6名のプロフィールを紹介していきます。ひとりひとり全く異なる経歴からは、それぞれの専門分野や能力を生かしてキャリアを積み、グローバルに活躍する基盤を築いてこられたことが伝わってきます。
「最後に自分のことを紹介します」と話された、大森さんご自身の経歴や世界銀行入行の経緯は、世界を意識した学びや行動力、知識の積み重ねがキャリアにつながることを強く印象づけるエピソードでした。
しかしながら、世界銀行で働く約1万1千人の中で日本人職員の割合は3%程度であり、まだまだ少ないと大森さんはおっしゃいます。
「なぜ、日本人はなかなか国際機関に入ることができないのか?」。それは、世界銀行で働くために絶対必要な3つの要素、「英語力」「専門性」「途上国に関する知識と経験」を併せ持つ人材が少ないという背景があります。
「国際機関の採用プログラムの多くは年齢制限が32歳から上限35歳までで、それまでに英語力を磨き、大学院での修士号の取得、途上国での活動を経験するためには、大学を出てからの約10年間で必要な要素を満たすことが重要です」。
「みなさんには、全体像を広い視野で見るマクロ型の知見と、深い専門的な知識を兼ね備えた人材像をもってもらいたい」。
生徒たちにしっかりと届くように、明確に丁寧に伝えていく大森さん。
国際的なキャリアの入口に立つまでに必要なことを知った生徒たち。その遠くない将来に向けたひとつの指標を受け取りました。
「語学と専門性が本当に重要です。大学の先に大学院に行くことや留学することを、頭の中に入れて勉強してもらいたい。そうしたことが、国際機関でのキャリアをスタートさせる必要最低限の条件です」
最後に念を押すように伝えた大森さん。多くの情報が凝縮された1時間の講義は、世界に眼差しを向ける生徒たちを力強く後押ししていました。
「途上国からは利子を取るのか?」「加盟国の責任の比重はどうなのか?」「軍事や戦争にお金を使われることはないのか?」。講義後の質疑応答では、次々に質問があがります。
質問をきっかけにして世界銀行の仕事についてより詳しく聞いた生徒たちは、世界で動いていることやその背景を知り、未来のキャリアへとつながる新たな視野を広げました。