玉川学園の「自学自律」の教育理念に基づいた、さまざまな取り組みを学外に向けて報告する、『第5回探究型学習研究会』が行なわれました。
「グローバル時代のアクティブ・ラーニング」をテーマにした今回の研究会には、玉川学園の取り組みに興味を持つ、約150名の先生方や大学生、教育関係者のみなさんが全国から集いました。
世界でリーダーシップを発揮する生徒を育てる「スーパーグローバルハイスクール」。先進的な理数教育を推進する「スーパーサイエンスハイスクール」。思考力・表現力を育成する「学びの技」。それらの取り組みの成果を、ポスターセッション、公開授業、講演会と実践報告、ワークショップや見学会といった多彩な内容で伝えます。
午前中に行われたポスターセッションでは、アフリカン・スタディーズ、ヨーロピアン・スタディーズに参加した生徒と、国際問題を研究した生徒が発表。
生徒たちが研究結果をまとめた資料をもとに、その場に集まった人たちにプレゼンテーションをします。来場者からの質問やアドバイスを受けるなど、注目を集めていました。
公開授業では、国連会議のシミュレーションを行う「模擬国連」を実施。
「児童労働の撤廃」のテーマで、“カーペット業界から児童労働を永続的になくすこと”を目標にして話し合いました。
発展途上国を担当する生徒と先進国を担当する生徒が混合する5つのグループに分かれ、“どの国にとってもウィン・ウィンの案をつくるにはどうすればいいか”、意見を出し合い、解決策を探ります。
はじまると同時に、50名程の来場者が各グループの周りで様子を見守る雰囲気に、少し緊張気味の生徒たち。けれども、すぐにディスカッションに集中し、活発に動き出しました。
「先進国の技術者に、発展途上国で技術を伝えてもらう。そうすれば、発展途上国は仕事の生産性が高まるし、結果的に先進国にとってもよくなると思う」
「“児童労働によってつくられていません”というマークをつくるのは?フェアトレードマークと同じように、先進国の会社は社会貢献しているアピールになりそうだよね」
どのグループも短時間で、先進国と発展途上国が相互に利益のある案を考え出し、その視点の多様さや柔軟な対応力、協議、交渉力の高さに、来場者たちはおおいに関心の目を向けていました。
午後には、講演と実践報告が行われました。
アクティブ・ラーニングを実践する際、生徒たちに問題や提案を数値で客観的に示す力が求められる、現在の教育の流れを考慮し、テーマは“統計学”でした。
基調講演は、文部科学省初等中等教育局視学官の長尾篤志さんによる「問題解決と統計の活用」。
「データに基づいて事象の傾向を把握し、物事を適切に判断できるようにする。それは、主体的に学習を進める態度を育てます」。
学習指導要領などのさまざまな資料を紹介しながら、問題解決に“統計”を活用することの重要性、教育的な意義を解説されました。
続いて講演されたのは、慶應義塾大学大学院教授で統計科学を専門に研究されている渡辺美智子さん。
「問題があったとき、その対象に関する理想やあるべき姿を描きます。一方で、現実はどうなっているか捉えることで、理想と現実のギャップをはっきりさせます。そのときに生まれる“モヤモヤ感”が解くべき課題です。統計では、これを数値にします」。
日本の小学生が実行した統計の事例や、海外の統計に対する見解を示しながら、統計を使った課題解決の方法を紹介されました。
最後は、日本統計学会統計教育賞を受賞した、香川県立観音寺第一高校教諭の石井裕基さんによる実践報告。
石井さんは数学の授業で統計の探求学習を積極的に導入し、今年度の統計グラフコンクールで2名の生徒が受賞。その経験から、統計を活用した授業の成果と、メリット・デメリットなどの見解を話されました。
講演後の分科会では、SGHで模擬国連を担当する玉川学園の後藤先生によるワークショップが行われました。
模擬国連の概要や、生徒たちに教える交渉の仕方を講義のあと、集まった参加者で模擬国連を体験。
玉川学園で実践している交渉方法は、駆け引きをして勝ち負けをつけるのではなく、相互にメリットを生み出す方法です。そのため、生徒たちは交渉によって固定概念や先入観を捨て、それまでになかった創造的な案を生み出します。
午前中に行われた模擬国連の公開授業を見学していた参加者は、自ら体験したことで、そうした学び方の効果を実感し、理解を深めていました。
最後に催された懇親会では、「先進的なアクティブ・ラーニングの取り組みに刺激を受けました」「昨年度の研究会よりも生徒がより積極的になっていて、毎年成長していると感じました」といった感想が聞かれました。それぞれに有意義な学びを受け取り、よりよい教育を目指すエネルギーに満ちていました。
1929年の創立以来、受け継がれてきた「自学自律」の精神は、現在アクティブ・ラーニングという形で玉川学園の学びを支えています。この精神とともに、日々進化を続ける玉川学園の先進的な取り組みを、しっかりと発信した1日になりました。
【講師プロフィール】
(写真左より)
渡辺 美智子 Michiko Watanabe
1986年に九州大学で理学博士を取得。関西大学経済学部助教授、東洋大学経済学部教授などを経て、2012年より慶応義塾大学大学院教授。放送大学客員教授、独立行政法人統計センター理事。2012年度、第17回 日本統計学会賞を受賞。
長尾 篤志 Atsushi Nagao
1977年に広島大学理学部数学科卒業。広島県立高校,広島大学附属中・高教諭を経て、2001年、国立教育政策研究所教育課程研究センター教育課程調査官に就任。2011年より文部科学省初等中等教育局視学官。研究分野は、教育学と教科教育学。
石井 裕基 Hiroki Ishii
1984年 静岡大学理学部卒業後、香川県立坂出工業高校教諭。そのあと香川県のさまざまな高校で教壇に立ち、2006年 香川県立観音寺第一高等学校教諭に。2016年年度、第12回 日本統計学会統計教育賞を受賞。