グローバルキャリア講座

子どもたちを守る“使命”と“情熱”

October 26, 2016

吹奏楽部の演奏とともに、にこやかな笑顔で入場するアグネス・チャンさんを、高等部の全生徒たちが大きな拍手で迎えました。

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ユニセフ親善大使、歌手、教育学博士など、幅広い分野で活躍されているアグネス・チャンさんをお招きした今回のグローバルキャリア講座は、生徒たちによるプレゼンの後、アグネスさんにご講演いただきました。

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生徒たちのプレゼンテーションは、『子どもの安全保障』について。「模擬国連」「人身売買」「子ども兵」「ユニセフ」の4つのテーマを各グループに分かれて調査して、現状、問題、原因、解決策を踏まえた深い洞察とともに意見を発表。

「問題は遠い国の話ではなく、日本にも密接に関係しています」「子ども兵は洗脳され、紛争に駆り出され、自爆テロもさせられるんです」「当事者意識を持って現状を知りましょう。そして、それを周りに伝えることが大切だと思います」。

アグネスさんはメモを取りながら、生徒たちの真摯な想いを包み込むような優しい眼差しでプレゼンを見つめていました。

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「みなさんの発表を聞いて思い出したのは、『子どもたちの味方になりたいので一緒に活動しませんか』と誘われて、ユニセフ大使になった時のことでした」。生徒たちの発表を受けて話しはじめるアグネスさん。

1998年、初代日本ユニセフ協会大使に就任以来、タイ、南スーダンなど17の国々を歴訪し、現場で目の当たりにした“児童買春”“人身売買”“児童兵士”の過酷な現実と、ご自身の活動についてお話しいただきました。

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ユニセフ大使として視察に訪れた国々で遭遇した現実はどれも信じがたいものでした。
奴隷のように働かされ、病気になったら簡単に山に捨てられてしまうタイの子どもたち。教育を受けられずに子ども兵になり、地雷処理中に親友をなくしたスーダンの男の子。人身売買で売られ、保護されて家に戻ってもまた売られてしまった女の子――。

現地での衝撃を彷彿とさせるアグネスさんの語り口と相まって、生々しく伝わってくる現実に、生徒たちは息をのみながら聞き入ります。

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「ユニセフは、保護した子どもたちの職業訓練やリハビリをしたり、子どもを売ってしまう親を教育して二度と売らないと約束させるところまでするんです。でも、『売るしかなかった』と号泣する母親と、その貧しい生活を見て、何も言えないこともありました」
「子ども兵の解放を求めて、反政府軍の司令官に直接交渉にも行きました。うまくいかずに諦めかけていたけれど、3ヶ月後に全員解放してくれたんです!その時は、本当に、本当に嬉しかった」
子どもたちのためにできることは何でもやってきたというアグネスさん。よい結果のときもありましたが、根本的には解決されていない問題の大きさを、いつも感じずにはいられなかったと振り返ります。

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国内で進めていた活動も、批判や誹謗中傷、脅迫など多くの困難にも見舞われました。それでもやめずに続けてきたのは、「苦しむ子どもたちに出会ったから。見た人には責任がある」という想いがあったからでした。

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アグネスさんは子どもたちのことを、どんなところに居ても、どんな境遇であっても、愛しく素晴らしい存在だと言います。
性病に感染し、「自分はもうこんなに汚れてしまった」と嘆く子どもたちを抱きしめ、「誰もあなたを汚すことはできません!何の痕も残ってない。あなたたちは私から見たら、生まれたての愛しい天使です。きれいなままです!気にするな!」と言って一緒に泣いたというエピソードでは、その隔てのない愛情に触れ、会場の空気が震えました。

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「現地を訪れる時は、どんな心構えを持って行くのですか?」「さまざまな経験から、いちばんに感じるのはどんなことですか?」。講演後の生徒たちの質問にも、誠心誠意に答えるアグネスさん。

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「みんな地球に生きる人、子どもの命も自分の命も一緒。私の心構えは、ひとりでも多く、1日でも長く、子どもたちに生きてほしい、それだけです」
「人身売買、子ども兵が、なぜなくならないのか?それは戦争がなくならないからです。戦争によって貧困が生まれ、貧困が問題を生みます。だから、平和がなければ子どもたちを救えません」
そう言い切ることばは、とても自然に心に響きました。

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「日本は優しくて、世界の中で力があります。日本が動けば世界がよくなっていくんです。でも、私だけでは全てのことは解決できません。ひとりでも意思を共にする仲間を増やしてみんなでやれば、きっと大きな流れの一滴になって、前進すると信じています」。
アグネスさんの強く柔らかなエネルギーが伝播した会場に、温かい拍手が湧き起こりました。

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日本という恵まれた環境に生きる自分たちは、世界に貢献できる力を持っていることを知った今回の講演。信念を持ち情熱を傾けること、行動する勇気を持つことの大切さを生徒たちの胸に残しました。

Lecturer Profile
アグネス・チャン
Agnes Miling Kaneko Chan
香港生まれ。1972年「ひなげしの花」で日本デビュー。一躍、アグネス・ブームを起こす。上智大学国際学部を経て、カナダのトロント大学(社会児童心理学)を卒業。‘84年国際青年年記念平和論文で特別賞を受賞。‘85年北京チャリティーコンサートの後、 エチオピアの飢餓地帯を取材、その後、芸能活動のみでなく、ボランティア活動、文化活動にも積極的に参加している。