UNHCR(国連難民高等弁務官)駐日事務所の協力を得て、『UNHCR難民写真展』が開催されました。
「NOWHERE PEOPLE:THE WORLD’S STATELESS 考えてみてください 国籍がないことを−世界の無国籍者たち」と題されたこの写真展は “無国籍問題”を周知し、なくしていくためのキャンペーンの一環として企画。
展示された写真は、無国籍問題への理解を広める活動をしている世界的写真家グレッグ・コンスタンティン氏の作品。
学生や児童、生徒、地域の方々が気軽に見学できるように、玉川学園敷地内にある4ヶ所の施設で展示。大学以外の施設での展示はUNHCRでも初の試みです。
一般にも開放されている玉川学園購買部ギャラリーには、たくさんの近隣の方々が足を運び、より幅広い層に無国籍の問題を伝えることができました。
玉川大学内には2ヶ所で展示。ひとつは ELF Study Hall TAMAGO ラウンジ。
もう1ヶ所は教育棟の図書室。施設を利用する多くの学生が足を止めて、写真とその説明に見入っていました。
高学年(高校)校舎にあるマルチメディアリソースセンターでは、利用する生徒たちが、自然に目にすることができるように配置されました。
迫力ある構図、美しいモノクロの画面に写し取られているのは、各国で暮らす無国籍の人々。
国の教育を受けられず働かなければいけない子どもたち。身分証明書の発行ができないことで、正規の就職ができずに困る女性。移住地から追い出され路頭に迷う人々。戦争、民族、宗教などの社会的な理由で無国籍状態に陥った人々の過酷な現実がひしひしと伝わってきます。
「日常からは想像しにくい“無国籍”という問題。数々の説得力のある写真から、新たな視点を持つことができました」
「胸が詰まる想いです。ひとりでも多くの方の目に触れるよう願うばかりです」
「世界に約1000万人の無国籍者がいるという現実を重く受け止めなければなりません。まず日本国内にも無国籍がいることを知ることからはじめたいと思います」
写真展に訪れた人々からは、そんな感想が聞かれました。
写真展の期間中の10月26日には、映画祭も開催。
映画『無国籍 ワタシの国はどこですか』の上映と、早稲田大学国際学術院教授で無国籍研究の第一人者である陳天璽(チン・テンシ)さんとのディスカッションに、大学生約10名、高校生約30名が参加しました。
映画は、日本で暮らす無国籍の人々に、陳さんがインタビューしていく様子をまとめたドキュメンタリー。
生い立ちや日々の生活とともに、無国籍者を守る法律も、理解する風土もない日本で生きる苦しさや悩みを聞きながら、無国籍問題を浮き彫りにしていきます。
やっとの思いで日本に逃れてきた人や祖国や両親の事情で、やむを得ず国籍を失った人々が、結婚もできず仕事にも就けず、苦しい生活を余儀なくされている現状が描かれ胸に迫ります。
「わたしは日本人。だから日本に帰りたい。日本に帰れるかな?でも、わたしは日本人なの?本当に日本人なの?」。
映画の終盤、無国籍を理由に、フィリピンに強制送還され両親と離れ離れになった少女の悲痛な訴えに、参加者のほとんどが悲しみを抑えきれず涙しました。
映画上映後のディスカッションは、生徒たちの疑問に陳さんがひとつひとつ答えていく形で進行していきます。
「無国籍は日本特有の問題ですか?」
「日本では無国籍に関する法律をなぜ取り入れないのですか?」
「問題を解決するために、若い人は何をすればいいですか?」
写真展と映画を観て、この問題に強い関心を持った生徒たちは積極的に質問を投げかけ、陳さんがひとりひとりの声にしっかりと耳を傾け、丁寧に答えていきます。
ディスカッション後にもより深い質問や涙を浮かべながらの相談が続き、生徒たちの豊かな感性と、心から問題に向き合おうとする姿勢に感銘した陳さんは、「あなたたちのような人たちが日本でリーダーシップを発揮してください。世の中の先入観に負けず、自分たちで新しい価値観をつくっていきましょう。ぜひ世界を明るくしてください」と激励。
無国籍という、日本ではまだ馴染みのない問題に気づくきっかけをつくった写真展、より身近な問題として意識し行動する想いを喚起した映画祭。社会の問題を多くの人に知ってもらうための有意義な機会をつくりだしていました。