グローバルキャリア講座

“人とのつながり”が導く平和と安全

November 5, 2016

今回のグローバルキャリア講座は、11年生、12年生約300名が参加して、学園内のチャペルで行われました。

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講師にお迎えしたのは、国連南スーダンミッション(UNMISS)・ベンティウ事務所長の平原弘子さん。
UNMISSの活動と平原さんの仕事のこと、そこで大切にされている「人とのつながり」についてお話しいただきました。

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「現在のキャリアに至ったのは“なりゆき”だったんですよ」。親しみやすい関西弁で平原さんのお話がはじまりました。

仕事について考えはじめたのは高校生になった頃。「海外で困っている人を助ける仕事がしたい」、そんな漠然とした想いからでした。高校3年生でのアメリカ留学、ミシガン大学への進学の経験で得た、より広い視野で世界を見たとき明確に意識したのは、“国際機関で働くこと”でした。

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国際機関で働くには何が必要なのかを具体的に考えた平原さんは、大学で学んだことや語学力を生かせる職場で経験を積み、目標にしていたJPO試験に見事合格。2001年からジュネーブの国連環境計画バーゼル条約事務局、ニューヨークのユニセフ本部と経歴を重ねていきました。

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けれども、それらの職場では、現場での仕事を望んでいた平原さんの願いは叶いませんでした。
「どうしても現場で仕事がしたい」。その想いはやがて、国連PKOへの参加につながり、念願だった現場での仕事を得ることができました。

南スーダン共和国の東エクアトリア州事務所長として赴任して3年が経った頃、上司から、「紛争の少ないところでゆっくりしたから、次は少し大変なところに行ってくれ」と命令を受けます。
紛争地域への異動には怖さもありましたが、「なるようにしかならないし、やらないと仕方ない!」と決心して、2016年2月、人口60万人ほどのユニティ州の州都ベンティウに事務所長として赴任されました。

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これまでも大きな紛争にさらされてきたユニティ州は、豊富な油田をめぐって2016年7月から再発した内戦が激化の一途をたどる危険地域で、総人口約60万人のうち10万人がベンティウの避難民キャンプでの暮らしを余儀なくされています。
スクリーンに映し出された、戦闘後の病院やキャンプを見張る武装兵の物々しい様子の写真を、生徒たちは目に驚きの色を浮かべて見つめていました。

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続いて、PKO活動によって改善した人々の暮らしぶりが伝わる写真とともに、人道支援団体の護衛、文民保護区内の警察活動、人権のモニタリングといったUNMISSの活動内容を紹介。

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UNMISSの重要な仕事に各所との交渉があります。この講演の1週間前にも、平原さん自身がUNMISSベンティウ事務所長として、政府軍と反政府軍のリーダーとの停戦交渉にあたってきました。
「ビビってると思われたら交渉してもらえない」という覚悟で、いつ撃たれるかわからない状況の中、防弾チョッキも着けず、護衛もつけず、反政府軍のアジトに向かったというエピソードに会場は圧倒されます。

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「外部の人間だから、話なんてなかなか聞いてくれません。それでも、アメリカやイギリスの大使を巻き込んだりして、いろいろな人間関係を構築することで、うまく交渉ができるようにしました」と平原さん。その上で、「頼むから、戦争しないでください」と訴えかけるのだと言います。
一触即発の状況の中で、人間関係や感情の力が戦争を阻止するという事実が、強い説得力を持って伝わってきます。

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「私の仕事の9割は人間関係の構築です。大変ですが、人間関係をしっかりつくっておくと、後で思わぬ光明が見えてくることもあるんです。大切なのはとにかく“人”。物事を動かすには、ベースに人間関係が必要なんです」

講演後、「文化や価値観の違う人との相互理解に必要なことは何ですか?」という質問への答えは、迷いなく確信に満ちていました。

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今回の講座で生徒たちは、“人間関係”というとても身近なことが、国際問題を解決する具体的な方法であること、これからのグローバルな社会には不可欠な力であることを、あらためて心に刻みました。

Lecturer Profile
平原 弘子
Hiroko Hirahara
米ミシガン大学アンアーバー校・資源環境学部で環境政策の学士号を取得。帰国して在日米軍座間キャンプの環境課に勤務し、その間には桜美林大学大学院で国際関係学修士号を取得。2001年からジュネーブの国連環境計画バーゼル条約事務局、ニューヨークのユニセフ本部への勤務後、PKO(国連平和維持活動)ミッションに参加。リベリア、ダルフール、キプロスのミッションを経て、南スーダンの東エクアトリア州事務所長を3年間勤め、16年2月から現職。