「外交官の仕事」をテーマに、全て英語で講義が行われた今回のグローバルキャリア講座。昼休みの開始とともに、会場の多目的室に続々と生徒たちが集まり、用意した椅子はあっという間に埋まりました。
講師は、インドネシア外務省の外交官として10年以上にわたって活躍され、現在、日本の政策研究大学院大学(GRIPS)の研究生として学ばれているウィバワ・リンタンさん。APECなどさまざまな国際会議での交渉や、議長のアシスタントも務められたご経験から、外交官の仕事についてお話しいただきました。
「みなさんは外交官についてどんなイメージを持っていますか?」。
リンタンさんの問いかけに、“外交官”のイメージを思い浮かべる生徒たち。
「私の友達は“海外に行けて楽しそう”と言います。社会でよくあるのは、“国際会議や会食をしてそう”というイメージ。そして私自身は、“外交官は兵士のように戦っている”というのが実感です」。
ユーモラスな写真とともに紹介されたイメージに共感したり驚いたりしながら、リンタンさんのお話に自然に引き込まれていきました。
近年、大きな発展を遂げたものの、1950年まで植民地統治が続いていたインドネシアは独立国としての歴史は浅く、インフラの整備が十分にできていないとリンタンさんは言います。
国の面積が大きく、人口が多いにもかかわらず統一したインフラがないことが、さまざまな課題の原因になっています。
そんな母国の抱える課題を解決するため、2003年からインドネシア外務省の外交官として尽力されてきたリンタンさん。
「外交官の仕事は、さまざまな調査を行い、国際会議に参加して、プレゼンや交渉によって国の課題の解決を図ることです。つまるところ、外交官は海外の国々と協力し合って自国だけでは解決できないグローバルな課題を解決しようとしてるんです」。外交官の仕事と、その存在意義を伝えます。
「インドネシアに行ったことある?」「外交官は何をすると思いますか?」。
双方向にコミュニケーションしながら、聞き取りやすくリズミカルな英語で進められる講義は、すっと内容が伝わってきます。
中でも生徒たちの興味を引いていたのは、外交の現場を感じる国際会議でのエピソードでした。
国際会議の場では、会議で各国が言い分を伝え合った後、会食で歓談しながら打ち解け、その場で具体的な解決策が話し合われていきますが、その交渉と調整にはいつも骨が折れるのだと言います。
ある国際会議で、インドネシアは課題であるインフラに関して協力を求め、日本を含めた多数の国が協力的に応じる中、アメリカの外交官だけが、「インフラが整っていないなら、貿易をして資金を得る必要がある」と主張。
何度話し合いをしても、「インフラがないと貿易もできない」と主張するインドネシアとはなかなか意見が合いません。
けれど諦めずに、互いの利益になることを考えながら粘り強く交渉を続けたリンタンさんは、貿易とインフラ整備、どちらの主張も両立させる妥協案を獲得します。
「自分たちと反対の意見を持つ国がいても、交渉の余地は必ずあります。相互の利益が何かを見極めましょう。そうすれば、国際的な協力を得ることができ、グローバルな課題も解決できるんです」。
最後を締めくくるリンタンさんのメッセージは、経験に裏打ちされた自信と熱意であふれていました。
「交渉力をあげるにはどうすればいいですか?」「外交官と国際機関で働くことの違いはなんですか?」「10年後のインドネシア、そして、世界はどうなっていると思いますか?」。
講義後は、時間いっぱいまで途切れなく続く質疑応答でいっそう盛り上がります。
「外交官の仕事は、自国の主張と相手の主張の間でニュートラルにいることが大切です。相手を受け入れながら、うまく自分たちの主張もする。中立にいることは難しいことではありますが、それこそがうまくいく秘訣なんです」。
質問に答えながら、数々の経験で見い出してきた、“仕事のコツ”を伝えてくださいました。
さまざまな国との関係性を見極めて、バランスを取りながら、自国の発展とともにグローバルな課題の解決に挑んできたリンタンさんの講義。生徒たちは、交渉によって世界を動かす外交官のエネルギーを間近で感じ取り、世界への意識をより大きく広げました。