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未来をつなぐ“国際キャリア”の学び

September 28, 2016

国連、外務省、国際NGOなどの国際機関で活躍する方々を講師に招き、『中高生のための国際機関キャリアフォーラム2016in玉川学園』が開催されました。

国際機関でのキャリア形成について、具体的なイメージを得て理解を深めることを目的に、9年生から12年生の全生徒887名が参加。講堂での基調講演の後、10名の講師による分科会、生徒たちの成果発表という流れで進められました。

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基調講演の講師は、関西学院大学教授の久木田純さん。2015年まで国連職員として活躍された久木田さんが、国連に入るまでの出来事を「自分史」の形にしてお話しいただきました。

「私は誰なのか、どうしてここにいるのか、何のために生きているのか」。最初に自分の人生を意識したのは17歳の時。自らにそう問いかけたことがはじまりでした。

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そこから“100年の人生計画”を立て、それにもとづいた生活を送るも、大学の成績が足りず進級できないという挫折を味わった久木田さん。計画に迷いながら新たな未来を探していたある日、国際機関の仕事を紹介する冊子で「国連職員」という選択肢を見つけ、「これが自分のやりたいことだ!」と衝撃を受けます。

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その後は、「国連職員」になるための努力を続け、晴れて採用に。赴任先の国々では、アウンサンスーチーやジャッキー・チェンといった著名人たちとも協力して、幾多の国際問題の解決に尽力されました。

「みなさんが100歳になると、22世紀を迎えます。それまでに貧困をなくせるのか、地球環境を正常に戻せるのか。私たちにはできると思います。戦略的に解決しましょう」。久木田さんの力強いメッセージに、生徒たちは大きな拍手で応えました。

分科会は教室に場所を移して行われます。10名の講師のみなさんの講義が同時に行われるフロアは、選択した講義の教室に急ぐ生徒たちの熱気でいっぱい。

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独立行政法人国際協力機構(JICA)の武市二郎さんは、今の活動の原点になった高校・大学生の時の体験を伝えました。
「‟協力隊”や‟JICA”ってなんだろう?ある時ふと見かけただけのことばに疑問を持ったことが、この仕事に就こうと思ったきっかけです」。高校生として共感するエピソードも多く、そこから貴重な進路選択のヒントを得ていました。

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外務省総合外交政策局国際機関人事センターの萩野敦年さんの講義テーマは、「先生は教えることがたぶんできないグローバルキャリアの積み方、教えます!」。
「英語ができること」「教育や環境、食料などの専門家になること」「修士号を取ること」など、ご自身の経験を踏まえて具体的かつ実践的に解説。その明快さに、生徒たちもぐっと惹きつけられていました。

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「運命を決めるのは、チャンスではなくチョイスである」。ご自身の人生の節目での選択を例に、“選択する勇気”を持てば、必ず未来は切り開けると生徒を励まされた国際通貨基金の関岡智美さん。
現在のキャリアに至った道のりや国際通貨基金の採用について説明されました。

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各国の貧困や飢餓の撲滅を目指す「ミレニアム開発目標」と、“この先私たちがしなければいけないこと”をお話された国連開発計画(UNDP)の近藤哲生さん。
「みんなで考えて、みんなでよりよい世界を実現しましょう。あなたは今から何をしますか?」という近藤さんの問いかけは、生徒たちの心に“自分たちの手で未来を変えていこう“という明確なメッセージを残しました。

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国際労働機関(ILO)の田口晶子さんは、世界の児童労働の現状を数多くのグラフや図を示しながら説明。
「なぜこのようなことが起き、そしてなくならないのでしょうか?」。豊富なデータが示す現実と、ひとりひとりに語りかける穏やかな語り口が相まって、子どもの人権を守ることの重要性を深く理解させる講義でした。

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先進国の技術を貧困地域につなぐ価値をお話された、国連工業開発機関(UNIDO)の村上秀樹さん。
「好きなことも嫌いなことも、いろんなことをやれば、きっといつかやりたいことが見えてきます」。迷いと葛藤を抱え、紆余曲折しながらチャレンジを続けて“やりたい仕事”にたどり着いた村上さんのことばは、進路に迷う生徒への心強いエールになりました。

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NPO法人世界の子どもにワクチンを日本委員会(JCV)の伊藤光子さんは、ワクチン寄付の啓蒙活動を行うご自身の団体と、さまざまなワクチン寄付の仕方を紹介。
ペットボトルのキャップの分別、JCVのSNSに「いいね」を押すといった小さなことでも寄付ができることを伝え、「高校生でも今すぐにできることがあります。まずは小さなところからはじめましょう」と、一歩を踏み出すことの大切さを教えてくださいました。

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「私たちがいつも心がけているのは、現地の人材育成です」と伝えられた、公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの藤野康之さん。
世界の子どもたちの生命に関する問題点や、NGO職員の現地での仕事を丁寧に解説。生徒たちは国際的な仕事をするための心構えを学びました。

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内閣府国際平和協力本部事務局(PKO)の中兼耕平さんは、PKOや防衛省、自衛隊で働くために必要な力と、国際貢献の魅力についてお話されました。
南スーダンでの支援活動などのエピソードは印象的で、生徒たちは国際貢献の最前線で働くことの凄みを感じ取っていました。

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高校生時代にケニアに住んでいたことから、「国際協力に携わりたいと考えた」という日本赤十字社の松本彩香さん。
「政治や文化など、たくさんものを乗り越えているのが赤十字です」。ご自身のキャリア選択への納得と仕事への誇りが、将来を描く生徒たちの背中を押していました。

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フォーラムの最後は、「SGH生徒発表会」で締めくくります。
玉川学園SGHプロジェクトの取り組みである、「ヨーロピアン・スタディーズ」「アフリカン・スタディーズ」で海外を訪問した生徒たちが、現地の様子とその国が抱える課題を発表。

「調べただけではわからなかったアウシュビッツの雰囲気に圧倒されました」「現地の学生と交流しながら、ギャップとともに共通のものも感じました」「もっとこの国のために何かをしたいと思います」。
事前に調べたことと実際に触れて見えた“違い”への驚き、感動を、生き生きと伝えました。

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全プログラム終了後には講師のみなさんの懇親会が催され、打ち解けた雰囲気の中、親睦を深めました。学生たちの海外への関心の変化について意見交換が行われるなど、その場は、若者のキャリア形成を応援し、未来につなげていこうという想いで溢れていました。

講師の方々と生徒が国際舞台で働くことを共に考える機会となった今回のフォーラム。生徒たちは、国際キャリアへの一歩を踏み出すための学びと、世界の未来につながる力を受け取りました。

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【講師プロフィール】

基調講演
久木田純(くきた じゅん)
関西学院大学学長直属SGU招聘客員教授。九州大学大学院で教育心理学修士号取得。1985年より、国連職員として海外の事務所に派遣。世界銀行総裁賞受賞、東ティモール共和国勲章を受勲。

分科会1
武市二郎(たけいち じろう)
JICA 財務部会計課課長。1997年に入社。本部のほか札幌、カンボジアに駐在し、開発途上国の農業・農村開発プロジェクトに従事。予算・決算、経理システムの開発運用を担当する。

分科会2
萩野敦年(はぎの あつとし)
慶応大学法学部法律学科卒。1994年外務省入省。ルーマニアに約7年滞在。外務省では中・東欧課ルーマニア担当官、第一国際情報官室を歴任し、現在国際機関人事センターに勤務。

分科会3
関岡智美(せきおか ともみ)
IMF アジア太平洋地域事務所シニア広報マネージャー。日経・外資系企業で記者や広報の仕事を経て、2010年よりIMF職員として活動。2012年、早稲田大学公共経営研究科修了、公共経営修士号取得。

分科会4
近藤哲生(こんどう てつお)
国連開発機構駐日代表。大学で開発学修士号取得後、外務省入省。2001年よりUNDPでの活動を開始し、バンコク、コソボなどでの勤務を経て、2014年より現職。東京大学大学院非常勤講師。

分科会5
田口晶子(たぐち あきこ)
国際労働機関駐日代表。京都大学法学部を卒業後、労働省(現厚生労働省)入省。婦人局婦人政策課企画官、統計情報部賃金福祉統計課長などを歴任。その後、立命館大学公務研究教授を経て、現職。

分科会6
村上秀樹(むらかみ ひでき)
国連工業開発機関東京投資・技術移転促進事務所次長。電気メーカーで海外マーケティングなどを担当。アメリカの大学院卒業後、開発コンサルティング会社勤務を経て、UNIDO職員として活動。

分科会7
伊藤 光子(いとう みつこ)
NPO法人世界の子どもにワクチンを日本委員会常務理事・事務局長。上智大学卒業後、ロンドン大学大学院修士。1981年外務省入省。さまざまな国の国連機関を担当し、定年退職後、現職。

分科会8
藤野康之(ふじの やすゆき)
公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン海外事業部保険・栄養主任。NPO法人や民間企業、JICAに勤め、さまざまな国で勤務。現職ではミャンマー事務局勤務後、現在海外事業部を担当。

分科会9
中兼耕平(なかがね こうへい)
内閣府国際平和協力本部事務局参事官補佐。インド洋で補給支援活動、ソマリア沖アデン湾で海賊対処などを行い、現職では連絡調整要員として南スーダンで国際平和協力業務に従事。

分科会10
松本彩香(まつもと さやか)
日本赤十字社国際部企画課研修係長。大学卒業後、日本赤十字社に就職。国際救援課や広報室での業務、国際赤十字委員会本部出向を経て、現在日本からの海外派遣要員の人材育成を担当。DSC02980