グローバルキャリア講座

さまざまな国際キャリアから見えた「世界で働く」ということ

September 12, 2015

台風一過の爽やかな秋晴れとなったこの日、全校生徒を対象にしたSGH企画として、『中高生のための国際機関キャリアフォーラム2015in玉川学園』が開催されました。

「国際機関で働くことはどういうことか?」をイメージし、キャリア形成には何が必要で、どのような道があるのかを知るために、国連、外務省、国際NGOなど世界各地で活躍される講師の方々11名をお招きして、日本初の中高生向け国際機関合同フォーラムが実現しました。

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9年生(中3)から12年生(高3)総勢898名の生徒が、基調講演と分科会で、“世界に関わること”や“自分と世界”について考えていきます。

朝8時40分、11年生と12年生454名が講堂に集合し基調講演からスタートしました。
講演されたのは、外務省 総合外交政策局 国際機関人事センターの萩野敦年さん。「今グローバルに活躍するとは」というテーマで、ご自身の経験を交えながら、「英語を勉強すること」や「専門家になること」など、必要なことをひとつひとつわかりやすくお話いただきました。

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国際社会で活躍するには「異文化を理解することが重要」と萩野さん。ルーマニア赴任中の実体験をもとに、日本人の常識が“世界の常識”ではないことを伝え、生徒たちは、「求められるのは多様な考えを受け入れて各々の違いをつなぐことができる人である」と知ることができました。

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萩野さんからの最後のメッセージは、「目の前の勉強をしっかりしながら、世界情勢に意識を向けておくこと。グローバル人材への道は自分磨きの道です」ということ。講話後の質疑応答では、さっそく大学や専門分野など具体的な進路についての質問があがりました。

続く分化会は、10の教室に分かれて事前に選択した講義を受けます。

国連人口基金(UNFPA)の佐崎淳子さんは、「国連人口基金の活動および国連を職場として」というテーマで、たくさんのグラフや図を示しながら、世界のジェンダー問題の現状、解決のために行われているプロジェクトについてお話されました。
佐崎さんの取り組まれている内容とその姿勢から、“人間の尊厳”というものの大切さを知りました。

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国連児童基金(UNICEF)の平林国彦さんは、ご自身の医療に関する知識、国連での経験とともに、グローバルリーダーになるための7つの能力を漢字一文字で表した、“漢字7文字”について話されました。
「それぞれの人間が“志”を持つこと」「“義”とは何か考えることがグローバルリーダーになること」。一文字一文字について丁寧に、そして情熱的に説明をされる平林さん。グローバルリーダーになるための心のあり方を知る体験になりました。

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国連工業開発機関(UNIDO)の村上秀樹さんの仕事は、貧困地域と先進国の企業をつなぎ、技術によって途上国の生活を向上させること。
挫折や迷いを乗り越えて心から打ち込める仕事にたどり着けたのは、「チャレンジしないとやりたいことはできないと思い続けていたから」と話され、「怖がらずに、やろうと思ったことに一生懸命取り組んでください」と、チャレンジの大切さを伝えられました。

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国連開発計画(UNDP)の野口義明さんは、学生時代のこと、民間企業での仕事、そして現在の国連での活動について、興味深いエピソードを織り交ぜて話されました。
「貧しい国がなくなって、自分たちが活動しなくても大丈夫な世界にすることが目標」。大学生の時にバックパックで訪ねたアジア諸国の貧困の実情を知ったことが現在の仕事のきっかけとなったこと、国連の支援活動でのさまざまな体験を語られた野口さんのことばは、生徒たちの胸にしっかり届いていました。

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国連世界食糧計画(WFP)の野副美緒さんは、「世界を創る人になる」というテーマで、国連ではどんな力が求められるか、どのようにして世界を創る人になるかについてお話しされました。
「自分の得意なことを見つけて専門分野を決めてください」「交渉したり自分を表現したりする人間力が必要です」。生徒たちは深い想いが込もったお話に引き込まれるように聞いていました。「常にヴィジョンを持ち、何かを創造できる人になってください」と送られたエールに、みんな大きく肯いていました。

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アフリカ開発銀行(AfDB)の遠藤衛さんは、「私のキャリアとアフリカ銀行」というテーマで、“金融”のジャンルで人々の暮らしを支援することについて話されました。
先進国では見られないマイクロファイナンスの仕組みや、現地でどのように人々が支援されるのかについて、実例を示しながら説明。この仕事に携わることになったきっかけなど自己紹介をとおして、こうした分野の仕事をするために必要なキャリアは何かを伝えていただきました。

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国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の今城大輔さんの講演テーマは、「人道支援と映画」。世界中から集められたドラマやドキュメンタリー映画をとおして「難民」への理解を広げる活動についてお話されました。
彼らの暮らし、数や地域、私たちも“難民”となる可能性があることなど、異なる角度で伝えられた事実は、あらためて難民についていろいろ考えさせられるものでした。「何かひとつの情熱と語学力があれば、国際的に活動することができる」というメッセージに、自分自身の目的を見つけることの大切さが込められていました。

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関西学院大学(KGU)の安居信之さんは、国際的な人材育成を目指す国際教育・協力センターを率いる教授として、世界で求められる人材に必要な資質や、国連ボランティア計画に派遣する学生について、条件や実例などを示して明快に解説。
最後に世界に通用する最大の武器は「日本人であること」であり、相手の意見を聞いて調整することを優先する日本人の調和的な考え方が世界をつなぐものだと説き、自信を持って国際人としての道を歩むよう伝えられました。

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日本紛争予防センター(JCCP)の石井由希子さんは、「ブレないキャリアのつくり方:組織を超えて活躍できる専門性を身につけていくために」というテーマでお話されました。
現在の仕事をするきっかけとなった阪神大震災での被災体験から、どのようにキャリアをつくってきたのか、紛争後の平和構築という仕事のこと、キャリアのために必要な資質について伝えられました。キャリアのきっかけやスタートは人それぞれだということを知る機会になりました。

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内閣府国際平和協力本部事務局 国際平和協力研究員(PKO)の矢野麻美子さんのテーマは、「世界の貧困、スラムと「居住の権利」:キャリア形成の視点」。国家的な貧困によるスラム化や、因習によって居住の権利を持てない女性たちなど、虐げられている人々の実情と支援活動を紹介。
さらに、国際機関でのキャリアの魅力や、進路について「国際開発型」「公務員型」「専門家型」の3つのパターンを示して説明。生徒たちにとって、国際協力が将来の選択肢としてぐっと身近に感じられる講座となりました。

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全てのプログラムを終えて、講師のみなさんの茶話会(懇親会)が催されました。それぞれにこの日の感想などを交換し、中高生の時にこうした機会が得られる価値をあらためて確認、共感されていました。

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今回のフォーラムで生徒たちは、“世界で働く”キャリアの多様さを知り、それが自分自身の進路選択のひとつとして身近なものであることを、それぞれ自発的に考えはじめるきっかけをつかんでいました。

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【講師プロフィール】

基調講演
萩野敦年(はぎの あつとし)
慶応大学法学部法律学科卒。1994年外務省へ入省。ルーマニアに約7年滞在。外務省では、中・東欧課ルーマニア担当官、第一国際情報官室を歴任し、現在国際機関人事センターに勤務。

分科会1
佐崎淳子(さざき じゅんこ)
国連人口基金 東京事務局長。大学卒業後、アメリカの2つ大学で国際関係論と人口開発/人口統計学の2つの修士号を取得。現在はUNFPAで女性の地位向上、ジェンダーの平等などに取り組んでいる。

分科会2
平林国彦(ひらばやし くにひこ)
国連児童基金 東京事務所代表。1994年、筑波大学大学院博士課程修了、医学博士取得。卒業後、国立国際医療センター国際医療協力局に勤務。2003年からUNICEFにて要職を歴任し世界の子どもたちのために貢献。

分科会3
村上秀樹(むらかみ ひでき)
国連工業開発機関 東京投資・技術移転促進事務所 次長。電気メーカーで海外マーケティングなどを担当。アメリカの大学院卒業後、開発コンサルティング会社勤務を経て、UNIDOの職員として活動。

分科会4
野口義明(のぐち よしあき)
国連開発計画 プログラムアナリスト。早稲田大学経済学部卒業、豪ボンド大学にてMBA取得。トヨタ自動車に勤務後、国際協力機構を経てUNDPの職員に。現在は日本政府および国内関係機関との連絡窓口として活躍。

分科会5
野副美緒(のぞえ みお)
国連世界食糧計画 イエメン事務所プログラムオフィサー。学生時代から緊急援助のボランティアとして活動。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで発展途上国における社会政策学修士号取得後、2003年から現職。

分科会6
遠藤衛(えんどう まもる)
アフリカ開発銀行 アジア代表事務所 渉外・広報官。大手鉄鋼会社に勤務の後、NGO職員としてタイ、カンボジアへの派遣、WFPのプロジェクト、在タンザニア日本国大使館での勤務を経て、2013年より現職を務める。

分科会7
今城大輔(いまじょう だいすけ)
国連難民高等弁務官事務所 UNHCR難民映画祭プロジェクトマネージャー。玉川学園高等部在学中にベルギーへ移住。「国境なき医師団」、映画配給会社勤務を経て、2009年から難民映画祭コーディネーターを担当し活躍。

分科会8
安居信之(やすい のぶゆき)
関西学院大学 国際教育協力センター 教授。日本航空に在職中に青年海外協力隊としてエチオピアに赴任。在タンザニア日本大使館、一橋大学・経済研究所、JICAを経て、2015年より現職に就き若い人材の育成に尽力。

分科会9
石井由希子(いしい ゆきこ)
日本紛争予防センター 事務局長。大阪大学法学部卒業後、英国シェフィールド大学院政治学科、立命館大学国際関係研究科を修了。国連に勤務後、政府機関や大学、国際NGOなどで、紛争地の平和構築を支援。

分科会10
矢野麻美子(やの まみこ)
内閣府国際平和協力本部事務局 国際平和協力研究員。国際基督大学卒業、ロンドン大学大学院、東京大学大学院修了。途上国の貧困・土地住宅問題、法学の研究を行う。NGOや銀行員、国連人権高等弁務官事務所にて実績を積み、2014年より現職。