昼休みにTED方式で行われる講座の3回目。回を重ねるごとに受講者も増え、今回は80人を超す生徒が集まりました。この日の講師は、国際協力機構(JICA)職員の浦輝大さん。「青年海外協力隊」として、2007年から2年間バヌアツ・タンナ島に派遣されたときの体験をお話していただきました。
はじめにJICAについて説明。「JICAは、開発途上国に国際協力する機関として、政府対政府として援助すること、青年海外協力隊として草の根レベルで援助すること、この2つのアプローチで活動しています」と、名前だけでその具体的な活動を知らなかった生徒たちにもわかりやすく紹介してくださいました。
その中で浦さんは青年海外協力隊員として、“現地の人に寄り添って、現地の人と働く”という目標のもと活動してきました。
帰国後も現地の人たちだけでできるように“技術移伝”することがボランティアの前提とされているため、“体育を教える先生”として派遣されることになった浦さんは、現地の先生たちと一緒に子供たちに教えることを思い描いて出発しました。
ところが現地に入ってみると、「同じことの繰り返しを一生続けるのが幸せ。それ以上は望まない」という自分とは全く異なる現地の人々の価値観に戸惑い、また理解するところもあるだけに、その間で悩まされることになりました。
教えたいと思った体育も、「毎日2時間以上も歩いて学校に通ってくる子供たちには不要だ。あなたの帰国後に体育を教える気はないからひとりでやってくれ」と言われてショックを受けた、それでも子供たちのために考えたことを子供たちはとても喜んでくれた、などなど当時の体育の授業の映像を交えて、その奮闘ぶりを伝えました。
そんな日々で最も辛かったのは、言語がわからずコミュニケーションが出来なかったこと。交流がうまくできずに住居にこもりがちだった自分を救ってくれたのは、毎日やってきては自分のことを覗いていく隣の幼稚園に通う子供たち。そして子供たちとは苦もなくコミュニケ-ションできること、言葉ができなくても交流できることを実感し、辛い時期を乗り越えたと話されました。
ここでその子たちの映像を紹介。そこに映っている子供たちのあまりの無邪気さにみんなが笑顔になり、あちこちで笑い声もあがりました。そして、当時の浦さんの心情に共感するように、会場に優しい雰囲気が広がっていきました。
派遣されて1年が経つ頃、体育を一緒にやってくれない先生方への不満は募るばかりだった。けれども、このままではいけない、なぜそうなってしまうのかと、支援者としてではなく“支援される側”の立場で考えてみることにしたそうです。そして、自分がいいと思っていることがその人たちには迷惑で、押し付けになっているのかもしれないと思い至り、残りの1年は先生と一緒にやることはあきらめ、子供たちだけにアプローチすることで楽しく過ごせたとのことでした。
派遣期間を終えたとき、ボランティアとして派遣されたからにはそれなりの結果が要求されると思い、「何も果たすことができなかった」と現地の人たちに伝えた浦さんに、「技術を教えてもらうことを望んでいたわけではない。はじめから日本人の友人が欲しかっただけだから、あなたはとてもよく応えてくれた」と感謝されて驚き、そんな人々の暮らすバヌアツはとても幸せな国なんだと実感されたそうです。
最後に2年間の思い出を写真と言葉で綴った映像を流しました。ひとつひとつの写真から伝わるものがあり、たくさんの子供たちの笑顔や人々の暮らしの様子に、見ている生徒たちもぐいぐいと引き込まれていきました。
映像の後、「途上国の人は困っていてかわそうだとういうイメージがあったが、現地にはそこの文化や暮らしがあり、バヌアツは自然と共存しながら何百年も持続可能な生活を送っていて、日本でも見習うことがたくさんあると思います」と締めくくりました。
途上国への支援とはどういうことなのか、自己満足で終わらない本当の支援とはどういうものなのか、豊富なエピソードと率直なレポートから、生徒たちがリアリティをもって考えるためのヒントに満ちた講演でした。