今回のグローバルキャリア講座は、ひとつのテーマについて、「事前学習」「質疑応答」「ディスカッション」と3週連続で掘り下げていくという初の試みで実施されました。
講師としてお招きしたのは元WFP 国連世界食糧計画(WFP)アジア局長の忍足謙朗さん。長きにわたって、多国籍、多人数のスタッフを率いて、緊急性の高い現場の第一線で指揮されてきた忍足さんの活動を軸に展開していきました。
最初の週は「事前学習」として、忍足さんが出演されたドキュメンタリー番組『情熱大陸』(TBS)と『プロフェッショナルー仕事の流儀』(NHK)を視聴。そこから感じた疑問や質問をメモに残しておきます。
2週目は「質疑応答」。学校にお迎えした忍足さんに、それぞれが考えてきた質問をしていきます。
“命を救うためなら、どんな状況でも、ルールを破ってでも、あらゆる手段を尽くして確実に食糧を届ける”という信念のもと、災害や紛争地域にいち早く届けて多くの命を救ってきた忍足さん。
そんな食糧支援のエキスパートへの質問が途切れなく続きます。
「なぜWFPに入ったんですか?」「リーダーとして必要なことはなんですか?」「なぜそこまで人に尽くせるんですか?」。
生徒たちの関心は高く、食糧支援活動について、世界で活躍するためのスキルなど多岐にわたる質問で、会場は次第に熱を帯びていきました。
「いつも意識していることは、いつまでも情熱を持って仕事に取り組むこと。そして、一緒にプロジェクトを行うチームをどれくらいハッピーにできるか。仕事というのはチームでやるものですし、チームがハッピーだと、どんな難題も乗り越えられますから」。
「自然災害の緊急支援の際には、ものすごいスピードが求められます。情報も、電気も、水もない状態で現地に行かなければなりません。現地でスタッフが心配せずに仕事ができるように、僕は多くの後方支援をするようにしています」。
生徒の目を見て、ひとつひとつの質問にていねいに答えていく忍足さん。過酷な現場で、“命を救う”ことを担ってきた経験に裏打ちされたお話は、強い説得力で胸に響きます。
「地球は小さな星であり、世界中の人は“この星の同居人”という感覚を持つべきだと思うんです。その同居人に思いやりを持つことが、僕の考えるグローバルな人間です。思いやりを持つには、まずは何が起こっているのかを知らなきゃいけない。だから、今地球で起きていることを自分から興味を持って知ってください」。
まっすぐに向けられたメッセージを受け取った生徒たちは、その想いに拍手で応えます。
講座終了後も、忍足さんの前には、興奮さめやらぬ様子で質問に向かう生徒たちの長蛇の列ができていました。
翌週の3週目は「ディスカッション」。数人ずつのグループにわかれて意見を交換しました。
話を聞くだけではなく、具体的なアクションに結びつけるために、「今回学んだこと」そして「自分たちが今できること」をテーマに、まずはブレーンストーミングを開始。
各グループが囲む模造紙は、アイディアや学んだことを書き留めたポストイットでみるみる埋まっていきます。ひととおり出たところで意見をまとめて、グループごとに、今の自分たちが感じ取ったことを伝えていきます。
「コミュニケーションの大切さを学びました。忍足さんが言っていたように、チームでいろんなことを話して、他の意見を尊重して、ひとつにまとめあげることが大事だと思います」。「報道にとらわれすぎないようにしようと思います。全部ただ信じるのではなく、実際のことを自分でも調べて理解したいです」。「仲間を思いやる気持ちを持つことなど、リーダーとして、どのように部下をまとめていくかを知ることができました」。
それらの意見をもとに、最後は参加者全員でアイディアを膨らませていきます。
「海外のニュースアプリをダウンロードするのがいいと思う!手元にきた通知を見るだけでも、世界についてより知ることができるから」。
「まずは自分たちがSNSを使って発信し、世界のことを知るきっかけを、周りの人に伝えていこう」。
“まずは世界を知る”ということを胸に刻んだ生徒たち。この話し合いでも、“知る”ことを核にした具体的なアクションを描き出しました。
世界で活躍する方々のお話を、準備からアウトプットの過程をとおして理解することで、世界の問題を“自分の実感”として心に留めた今回の試み。グローバルキャリア講座の新たな可能性を広げる布石になりました。