グローバルキャリア講座

グローバル時代の“社会の見方”

January 12, 2017

「メディアで働くことと、世界を舞台に働くことの間には共通点があるんじゃないか。そういうテーマでお話ししていきたいと思います」

グローバルキャリア講座に集まった約100名の生徒たちに語りかけるのは、NHKの番組ディレクターとして活躍し、現在はジャーナリストとして活動されている軍司達男さん。

gunji_01

今回の講義は、軍司さんがメディアの仕事をとおして考えてこられた、“グローバル時代の課題”、“それを解決するために必要な力”、“これからの時代を生きていくために必要なこと”についてお話しいただきました。

gunji_02

「地球上には、首都直下地震、鳥インフルエンザ、核戦争など、私たちが直面するかもしれない大きな危機があります」
講義は、そんな問題提起からスタート。世界が抱える問題を、調査データや事例を示しながら正確にわかりやすく解説されていきます。
世界で起きている問題に目を向け、多くの人々に伝える番組制作をすることで、科学技術と社会の関わりを考えてこられた軍司さんのお話しは、“経験”と“メディアとしての公正さ”に裏打ちされた説得力があり、会場の空気をぐいっと引き寄せます。

gunji_03

gunji_04

続いて、1989年に、まだなじみのなかった地球温暖化問題を日本ではじめて本格的に取り上げ、広く知らしめるきっかけになったドキュメンタリー番組の冒頭部分を上映。

「2050年には気温が4.1℃上昇する」「風速100mの台風が発生する」。70名を超える世界中の科学者たちが当時予測した結果を忠実に再現したシミュレーション映像に見入る生徒たち。映像の迫力とともに、温暖化による影響の大きさをあらためて知り、驚きの表情でスクリーンを見つめていました。

地球温暖化の問題を感覚的に理解してもらう目的で制作したこの番組は、視聴率20%を記録し、大きな反響を呼びました。しかし、世界中の科学者やメディアの人々が鳴らした警鐘は、地球温暖化を改善しようという社会的な動きにはつながりませんでした。

gunji_05

1995年のCOP(気候変動枠組条約)会議の開催で、ようやく社会の関心が高まりましたが、各国間の利害の対立で議論は紛糾。その後、2015年の国際会議でパリ協定が採決され合意に達するまでに、実に21年もの歳月が経過していました。

「この合意を導き出したのが、国際会議の責任者に任命された、ローランス・トゥビアナさんです。そして彼女がこの時発揮した力こそが、これからの国際社会で活躍するための参考になります」と軍司さん。

gunji_06

ローランスさんは、多面的に物事を見て問題を解決する手腕に優れた人物でした。「必ず決着させる」という強い意思で会議に臨み、徹夜で議論したり、反対国の代表者をまとめ役にしたり、さまざまな立場や状況を多面的に見ながら、見事な采配で利害関係を調整。
「彼女のこの“多面的なものの見方”こそ、次の世代を生きる若者に身につけてほしい力です」と、ローランスさんの功績とともに、その力の重要性を伝えました。

gunji_07

「地球温暖化の問題以外にも、世界にはたくさんの課題があります。そして、これからは非常に不確実で先の見えない時代になっていきます」。NHK時代から世界の問題と向き合い、時代をとらえてきた軍司さんは、そう分析した上で、そんな時代だからこそ、“多面的なものの見方”を磨くことが大切だと言います。

gunji_08

さまざまな視点から世界を見る目を養うための具体的なアドバイスとして、毎日複数の新聞の切り抜きをしたり、若者たちとの議論やウェブサイトでの情報発信をすることなど、ご自身の例を紹介。
「私たちは今、どういう時代を生きているか、この時代はどこに向かっているか、よりよくするためにはどうしたらいいか。常に自分なりの問題意識を持って、知識や情報を更新し続けることが、社会を見る力につながります」と、継続して実践することの大事さを伝えられました。

gunji_09

「メディアで働く人も、世界的な機関でさまざまな考え方の人たちと接しながら働く人にも、大事なことがあります。それは、ものごとの一面だけでなく、さまざまな面を見ながら、いちばん大事な本質をつかむことです」
講義の終盤、軍司さんの経験と想いが凝縮されたメッセージが送られました。

gunji_10

gunji_11

「報道されない真実をどう知ればいいか」「多様なものの見方があり、どれも正解であるとき、どのように判断したらいいのか」。講義後も、生徒たちの率直な質問にしっかりと耳を傾け、最後まで丁寧に答えてくださいました。

gunji_12

グローバル時代の“社会との向き合い方”を学んだ生徒たち。情報があふれかえるこの時代にも変わらない“大切なこと”を心に刻みました。

Lecturer Profile
軍司 達男
Tatsuo Gunji
1968年東京大学工学部都市工学科卒、NHKに番組ディレクターとして入局。主に科学番組のドキュメンタリー番組(原子力、技術立国、地球環境、医療、生命科学などのNHK特集)を制作。サイエンス番組部長、衛星放送局長などを経て、2003年放送衛星システム社長、2006NHKエデュケーショナル社長を歴任。教育テレビの番組開発とともに料理レシピや語学の独自ウェブサイトを立ち上げる。退職後は東京工科大学非常勤講師などに携わる傍ら、ジャーナリストとして個人的なウェブサイト「メディアの風」を主宰。