玉川学園が主催し、生徒たちが主体的に準備・運営して行われる「SGH玉川学園模擬国連会議」。
2年目の今年は、模擬国連初心者のための講習会や勉強会を設け、より充実した取り組みを目指しました。
今年の議題は、「紛争下における難民、国内避難民の問題」。会議前日には、3名の先生方をお招きして「難民問題研修会」が行われ、参加した6校、約50人の生徒たちが、難民問題についての理解を深めました。
はじめにお話いただいたのは、東洋英和女学院大学大学院の滝澤三郎教授。世界人口の3%が難民であるという現状を伝え、国家体制、紛争や貧富の格差が難民を生んでいること、援助の方法など、複雑化する難民問題を問いかけやジョークを交えながら、わかりやすく説明してくださいました。
続いての講座は、世界の難民をサポートするUNHCR駐日事務所副代表の小尾尚子さん。事例を交えて難民問題の解決策について解説し、「受け入れる国が少ない上に長期化するため、日々どうすればいかを考えています。ぜひ高校生のみなさんにも一緒に考えてもらいたい」と訴えかけました。
最後は、法務省入国管理局審判課の君塚宏さん。25年間の入国管理のキャリアから、日本の難民支援についてお話くださいました。
「“難民鎖国”と言われ、世界からも難民に冷たいとされる日本ですが、環境や状況が違うため同列で比較することはできない。日本ならではのやり方で支援することが重要です」と伝えられました。
講義後は質疑応答が行われ、1時間にわたって生徒たちの質問にお答えいただきました。
いよいよ迎えた当日は、SGHに取り組む16校、約140人の生徒が集合。
「SGH玉川学園・模擬国連一日会議」がはじまりました。
朝9時の開会式後、A・B2つの会場に分かれて「模擬国連会議」がスタート。各国の大使として準備してきた生徒たちは、討議・交渉を重ね、自国を守りつつ国際的な利益にもつながる答えを導き出していきます。
会場には、各国の立場や提言が書かれた”交渉ペーパー”が掲示され、アプローチの参考にします。
昼食をはさんで午後から“DR”と言われる草案の完成を目指し、さらに本格的に活動する各国の大使たち。
“スピーチ”で自国の難民問題を伝え、賛同する国を呼びかけたり、“アンモデレートコーカス”という交渉タイムで、個別交渉や討論、妥協を繰り返していきます。
両会場には、ひとりの大使の周りを何重にも取り囲むようにして意見を聞く光景も増え、各国の方針も徐々に固まって、会議は大詰めに向かっていきます。
最終的に、A会場ではドイツとアメリカ、B会場ではミャンマー、アメリカ、ハンガリーがDRを提出し、説明のスピーチと最終交渉、投票による決議が行われました。
A会場ではアメリカの、B会場では3カ国全てのDRが採択されて会議は終了。
最後は全生徒が集まって閉会式。一日を振り返るスライドショーや各会場のDRの紹介、議長からのフィードバックと進み、表彰式では机でドラムロールを叩いて盛り上がり、地域や学校の違いを超えた一体感で溢れました。
会議を開催するホスト校として、資料づくりから当日の運営までさまざまな準備を重ねてきたメンバーたち。信頼し合い、支え合ってきたみんなの想いがしっかりと結実しました。
参加した生徒たちは、個人ではなく「国」という立場でコミュニケーションすること、グローバルな舞台で活動することの大きな手ごたえをそれぞれにつかんでいました。
【講師プロフィール】
滝澤三郎
東京都立大学大学院博士課程を経て法務省入省。カリフォルニア大学バークレー経営大学院修了後、1981年国連ジュネーブ本部採用。UNIDO(国連工業開発機構)ウイーン本部財務部長などを経て2002年から06年までUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)ジュネーブ本部財務局長。07年から08年8月までUNHCR 駐日代表。国連大学客員教授を経て現職。アメリカ公認会計士。
小尾尚子
カナダウィンザー大学政治学科修士課程終了。国際基督教大学行政学研究科修士課程終了。国際基督教大学行政学研究科博士課程終了。1987年よりUNHCRに勤務。ケニア、フィリピン、タイなどの地域事務所、及びスイスジュネーブの本部に上級法務官、上級国際保護担当官、及び上級政策評価・分析官として勤務。
君塚宏
明治大学政治経済学部政治学科卒業後、法務局入省。
入国管理局で人事組織、政策、入国残留審査、外国人登録の各業務を担当。法務局入国管理局登録課補佐官、法務局入国管理局総務課出入国情報管理室補佐官などを歴任。その間、平成12年-15年、在タイ日本国大使館一等書記官(政務)を務める。