模擬国連/MUN@IB

異なる立場で見た“世界”が伝えること

February 4, 2018

玉川学園の生徒たちが企画・運営する「第4回SGH玉川学園模擬国連会議」が開催されました。
今年は、関東・関西の17校、129名の生徒が集結。2日間にわたって、『寒冷化における食糧安全保障』を巡る熱い議論を交わしました。

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今回の会議は、1日目の午前中に研修会を行い、午後と翌日に会議を行う構成で開催されました。
研修会では、お招きした2名の講師から、議題である『食料安全保障』についての講義を受けて理解を深めます。
生徒たちは、世界の食糧について一線で活動されているお二人のお話から、これからの議論で現実的な裏付けとなる情報をつかみました。

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はじめにお話しいただいたのは、FAO駐日事務所代表のンブリ・チャールズ・ボリコさん。
国連機関であるFAOの活動内容、人口増加や新興国の食生活の変化が与える影響、先進国の食料ロス・廃棄問題など、食料安全を脅かす世界的な問題を力強く訴えかけました。

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「みなさんにお願いしたいことはひとつだけ。食料ロス・廃棄をなくすことを意識してください。そして今日ここで感じたことをクラブ・教室・友達に呼びかけて実践してください」
生徒たちは、一段と強く語りかけるンブリさんのことばを真剣な眼差しで聞いていました。

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続いて、農業経済学などを専門に研究されている政策研究大学院大学教授の株田文博さんの講義。
「私が今日みなさんに伝えたいことは、正解や答えではなく、問題についてどう考えればいいのか?という視点です」と、多様な視点から、世界で議論されている『食料安全保障問題』を紹介。

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食料輸出国と食料輸入国の食料需給・価格に関する見解の相違、食料備蓄が政策として実施されない理由、バイオエネルギーに関する異なる見方など、「どちらが正しいというわけではなく立場や状況によって選択肢が変わります。みなさんには多様な視点を持って問題を見る力を身につけてほしい」と伝えられました。

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「質問はありますか?」。講義後の質疑応答では、生徒たちの手が一斉に挙がります。

「食料ロス・廃棄をなくすために個人で何ができますか?」「飢餓人口が増えているのに、なぜ全ての国で肥満が増えているのですか?」など本質をついた質問に、講師の答えも熱を帯び、予定時間を10分以上オーバーしてようやく収束。研修会は大きな拍手とともに終了しました。

午後からはいよいよ、各国の大使として会議に臨みます。

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模擬国連会議は、A、B2つの会場に分かれて行われました。
議題は、「地球寒冷化への対策〜食料安全保障」。まだ国際機関でも話し合われていない最新のテーマに挑みます。「食糧生産の増産と小規模農業の促進」「緊急事態や食糧危機に備えた体制づくり」の2つの論点、各国の立場を踏まえて議論・交渉し、全会一致による決議の採択を目指します。

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模擬国連に慣れていないメンバーが集まったA会場では、日本語で解説を入れながら進められます。
会議を進行するフロントメンバーの紹介、議長の開会宣言の後、「スピーチをしたい国はありますか?」との問いに、自国のプラカードを掲げて各国の大使が応えるのを皮切りに、会議が動き出しました。

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自国の政策、公式見解や意見を表明する「スピーチ」、「モーション!」という声に続き動議の提案を要求するモーションポイント、参加国に対して主張を述べ討議を提案するモデレートコーカス、自由に移動し交渉することのできるアンモデレートコーカス、根回しや個別交渉のためのメモ回しなど、実際の国連会議と同じ形で進行するこの会議では、さまざまなルールや用語が使われます。

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「アメリカの政策に関わる国は集まってください!」「ロシアの政策に興味がある国はこちらです!」「イスラエルのグルーピングに賛成の国は、こっちにきて!」
要請によりアンモデが開始するとすぐに、各国の主張や利害を考え、意見をまとめるために、あちこちから声が上がります。多くの国が集まったグループでは、発言をリードする国が中心となって話し合いを進めていきます。

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「石炭をもっと有効活用したほうがいいと思う」「輸出が多い国は集まって、穀物価格を安定させて市場を管理する役割を担うべき」。
他にも少人数で話し合いをするグループなど、自国の利益に沿った意見や、政策と擦り合わせていきます。
この日2回行われたアンモデはどちらも10分間の延長となるなど、白熱した議論が続きました。

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1日目の会議はここまでとなり、明朝7時30分までに提出するワーキングペーパー(WP)づくりのため、各国大使たちは再び話し合いをはじめていました。

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2日目。朝から会場に集合して議長の宣言で会期が再開、出席を確認するロールコールの後、さっそくスタート。
ここまでの政策を記したWPも配布され、各国、各グループでより突っ込んだ議論が展開されていきます。

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模擬国連経験者が集まった会場Bでは、あちこちで活発な意見交換が繰り広げられていました。時には自国の立場、主張にそって対立意見を戦わせながら、核心に迫っていく生徒たち。会場の熱気もどんどん高まっていきます。

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A、B両会場ともに、討議の時間延長を重ね、ぎりぎりまで修正を加えながら議案書を提出。最終的に全会一致による投票の結果、決議案の採択を導き出しました。

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閉会式では、各会場のMVPが発表され、全員で祝福。実行委員がつくった2日間の様子を捉えたスライドとともに、それぞれの取り組みを振り返りました。

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この会議で大使を務めるため、議題、担当国、世界の情勢など、たくさんの準備をしてきた生徒たち。幅広い視野だけではなく、どんな目的があるのか、どのように伝えるか、どこと協力するのかといった、総合的な知識・経験を大きく広げました。

【講師プロフィール】

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ンブリ・チャールズ・ボリコ
Mbuli Charles Boliko

コンゴ民主共和国出身、キサンガニ大学で学士(心理学)及び修士(産業心理学)取得。
キンシャサの商科大学で3年間教鞭を執った後、1990年に来日。名古屋大学大学院国際開発研究科より国際開発論で博士号を取得。1997年より国際連合食糧農業機関(FAO)に勤務。1998年からNY連絡事務所、2003年より事務局長官房付としてローマ本部に赴任。2009年からは人事部雇用・配属担当チーフ。2013年よりFAO駐日連絡事務所初の外国人所長として着任。
母国コンゴ民主共和国・カトリック大学の客員教授として、人事管理及び行政・開発についての指導を行う。

 

株田文博
Fumihiro Kabuta

政策研究大学院大学教授。東京大学農学部農業経済学科卒業。農林水産省入省し、大臣官房秘書課勤務、国際部国際経済課総括係長を経て、1996年 英国に留学。レディング大学で農業経済学修士、ロンドン大学UCLで資源・環境経済学修士を取得。
農林水産省国際部国際協力計画課海外技術協力官、大臣官房企画室企画官、在イタリア日本国大使館一等書記官、農林水産省総合食料局食料企画課課長補佐、農林水産政策研究所上席主任研究官等を歴任。東京大学、筑波大学で非常勤講師を務め、2015年から現職。