模擬国連/MUN@IB

諦めない姿勢で磨く国際交渉力

January 13, 2019

全国各地から12校・119名の生徒が参加して、「第5回SGH玉川模擬国連会議」が開催されました。

毎年、玉川学園の生徒たちが、準備から当日の会議進行までの企画・運営するこの会議。今年の議題である『イラクにおける平和構築』をめぐり、49の国々の大使になりきった生徒たちが、自国の利益と世界の利益の両立を目指し、2日間にわたって議論を交わしました。

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会議は、実際の国連会議と同様に、壇上で公式に意見を表明する“スピーチ”、着席してプラカードをあげて発言する“モデレートコーカス”、自由に個別交渉や討論する“アンモデレートコーカス”を繰り返しながら進められます。

1日目に各グループの政策を整理した“ワーキング・ぺーパー”を提出し、2日目に政策に対して24ヶ国以上のスポンサーを得た“合意案”を提出することを目標に、熱い討議を重ね、最後に、上智大学教授の東大作さんより、平和構築・国際関係の専門家としての視点から講評をいただきました。

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会議1日目。事前に割り振られた担当国についてリサーチし、議題に対する政策案を考えてきた生徒たちが、それぞれに受付を済ませ、続々と会場に集結します。
開始を待つ間にも会議解説書や各国の政策案を確認。これからの国家間での交渉をイメージする様子は、大使としての自覚に溢れていました。

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「創造的に交渉していき、結果だけでなく、合意結成までのプロセスを大切にしてください。そのためには、温かい人間らしさとお互いに感謝する気持ちを忘れないことが必要です。みなさんの健闘を期待しています」

午後1時、玉川学園高等部 長谷部部長の挨拶とともに、いよいよ会議がスタート。

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すぐにスピーチや質問を希望するため、国のプレートを上げてアピールする生徒たち。
各国の政策提言後にアンモデレートコーカスがはじまるやいなや、「アフリカの国の方々、集まりましょう!」「アメリカの政策に賛成する国は集まってください!」と力強い声が飛び交いました。

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「武力ではなく、国連会議の交渉によって解決するのがイラクにとって大切ですよね」
「多国籍軍については、どこか一国を主体にせず、国連を主体にした方が正当性が出ていいと思いました」
「武装解除・治安維持の実施は、最初に法整備をしてからだと思います」

いくつかのグループに分かれ、自国の政策を伝え合いながらディスカッション。5回にも及んだアンモデレートコーカスでは、その都度白熱した協議が続きました。

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そうして交渉や説得を行いながら、似た主張を持つ国や、地理や経済的なつながりのある国同士が集まり、次第にいくつかのグループが形成されていきます。

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午後6時。グループごとに政策をまとめ、締め切り間際まで粘ってつくりあげたワーキング・ぺーパーを提出して、1日目が終了。解散後も、半数以上の生徒が翌日に向けて話し合っていました。

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続いて2日目は、朝早くから会場に集合。公式サイトで共有された各グループのワーキング・ぺーパーを確認しながら、作戦を練ることからはじまりました。

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朝9時、議長の宣言で会議が再開。最初に行われたモデレートコーカスでは、各ワーキング・ペーパーへの質問が多数上がります。
質疑応答で理解を深め、各国の政策における共通点と相違点を見つけ出した生徒たちは、その相違点を埋めるべく、アンモデレートコーカスでの調整に臨んでいきました。

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「サウジアラビアグループを説得してくる!」「イラク軍に対する政策のここが違うんだ。どうすればいいんだろう・・」。
グループ間を絶えず行き来して交渉するなど、ヒートアップする場内。より突っ込んだ議論があちこちで行われ、生徒たちの集中は最大限に高まっていきます。

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交渉を積み重ね、最後には全グループがひとつの円になって話し合います。
最終の合意を得ようと懸命に探るものの、決着がつかないまま提出時間をオーバー。会議を運営するフロントの判断で70分延長し、昼休み返上で議論を続けました。

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しかし、条件を満たした合意案の完成には至らず、未完成ながら最も多くの国から支持を集めたワーキング・ぺーパーのみを提出され、会議は終了。
張り詰めた空気から解放されてほっとした表情を見せる生徒、合意案を提出できなかった悔しさが残る生徒、ひとりひとり想いを噛みしめました。

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会議の締めくくりは、上智大学教授東大作さんからの講評をいただき、その後の質疑応答とあわせて今回の模擬国連会議を振り返ります。

東さんは、今回の議題『イラクにおける平和構築』に関する歴史的背景について解説された上で、生徒たちの取り組みと提出されたワーキング・ぺーパーについて講評を伝えられました。

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「今回バース党について議論されていましたが、それは驚くべきことです。なぜならイラクにおける最重要な問題であり、的を射たものだからです」
「私は実際の現場も見ましたが、多くの国が集まってひとつの文書にまとめることは非常に大変なことです。みなさんもその難しさを実感したんじゃないかと思います」

国際政治学者としてのご経験に基づいた広い見識と多角的な視点による分析は、議論の内容を立体的に捉え直すとともに、多くの気づきをもたらしていました。

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「平和が続くためには、法律、経済、政治、何が最も重要なファクターでしょうか?」
「国益と国際益のバランスを取れるような議論にするには、どのような指針を持つべきですか?」

質疑応答では、イラクの平和構築に関する疑問から会議を成功させる秘訣まで、当事者として考え抜いたからこそ解けなかったことを積極的に質問。その答えは自分自身の知識としてしっかりと刻みました。

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最後に、目覚ましい活躍をした大使を称える表彰式が行われ、選出された最優秀賞1ヶ国、優秀賞2ヶ国、スピーチ賞1ヶ国の大使たちに賞が贈られると、参加者全員から惜しみない称賛の拍手が湧きあがりました。

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そんな会議の余韻がさめやらぬ中で行われた交流会では、生徒たちはすべてを終えた達成感と安堵感に浸りながら、互いの健闘を讃え合い、交流を深めました。

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「押しとおすだけじゃなく、お互い歩み寄って、建設的な議論をしてひとつにすることが大切だと思いました」
「専門知識がある人や的確な反論をする人、そして流暢に英語を話す人がいて、驚きと尊敬の念を感じましたし、自分ももっと勉強をしたいです」

他校の生徒から刺激を受け、自分自身の目標や次への課題を得ていました。

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全員でひとつの目標を達成するために、諦めずに食らいつき、最後の1秒まで意見の一致を目指した生徒たち。

今回は完遂することはできませんでしたが、その経験は大きな学びと意義を残し、これからグローバルな世界に羽ばたいていくことへの意欲を一層ふくらませていました。

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Lecturer Profile
東大作
Daisaku Higashi
1993年、東北大卒業後NHKに入社。報道局ディレクターとしてNHKスペシャルを企画制作。『我々はなぜ戦争をしたのか~ベトナム戦争・敵との対話』で放送文化基金賞、『イラク復興 国連の苦闘』で世界国連記者協会銀賞を受賞。2008年、アフガニスタン・イスラム共和国と東ティモール民主共和国の現地調査を実施、国連PKO局から出版した報告書で提案した和解プログラムが実現する。2009年12月からカブールでの国連アフガニスタン支援ミッションで勤務。2011年、東京大学大学院総合文化研究科准教授。2012年、ニューヨークの国連日本政府代表部に勤務し、2016年、上智大学グローバル教育センター(上智大学国際関係研究所兼務)に着任し現職。